「ふん、用心深いことだ。だがそれでいい。ここが宮中だということを忘れるな。お前の命に関しては私が保証する。くれぐれも失望させるなよ?」

 

幾度なく釘を刺すライザール様に承知の意で頷き返す。

 

愛想のない王であったが、とりあえずは現状で納得するしかなかった。

 

互いに名乗らなかったが、暗黙の了解があった。

王は私の名など興味はないだろうし、名乗る必要もないからだ。

 

彼の前で私は「レイラ」であればいい、ということだった。

レイラさまになりきるにはその方が私も都合がいい。

 

案件の重要性を考えても万が一知り合いに遭遇するわけにはいかなかった。

 

「レイラさまを見知っている方がおられるでしょうか?」

 

深層の令嬢だからおそらくそれはないだろうと思いながら尋ねる。

 

「それはない、私ですら彼女の顔を知らんからな。アリ家の者はかん口令が敷かれているからその心配はないが、問題がある」

 

王の言葉に頷きながら、彼女に未練がある可能性はないと排除する。

 

さすがに顔も知らない女性相手に恋慕があるとも思えなかった。

 

「なんでしょう?」

 

どの点に問題があるというのだろうか?

 

すると王が皮肉そうな笑みを浮かべた。

 

「レイラは美人ではないらしい。だからレイラになりすますためにベールで顔を隠してもらいたい」

 

 

美でもなく愛でもない、やはり純然たる政略結婚なのだろう。

野心的な王らしい選択と言えた。

 

「ではそういたします。ライザール様・・よろしくお願いいたしますわ」

 

「ああ・・・こちらこそ頼む。そうだ、レイラの侍女をつけるからなにかあったらその者に聞くといい。では私はこれで」

 

そう言い置くとライザール王は慌ただしく立ち去った。

やはり相当お忙しい方なのだろう。

 

レイラさまが見つかるまでと期限を設けたがそれだってどうなるかはわからなさそうだ。