先行き不透明な依頼ではあったし、長期的な潜入経験もさほどなかった。

 

その上実在の令嬢に成りすますのは思った以上に大変だろう。

 

私はその方を知らないし、他の方も知らないぶんなんとかなると思ったけれどもしレイラさまが戻られた時にあまりにも印象が違うと困るわねえ。

 

どのような雰囲気で演じるか迷った私はちょうどやってきたレイラさまの侍女に尋ねてみたのだが、さらに頭を抱えることになった。

 

まず見た目は十人並みで、頭脳派ではなく行動派。ま、そうよね駆け落ちしたんだし。それから華美なものを好む、と。貴族の姫君らしい女性像だった。

 

仮にも王妃になる方だし、精力的なライザール様の内助の功を要求されるだろうけど、だが悲しいかなこのシャナーサ宮はいまだに女性に教養は必要ないと思う方々も多いと聞く。

 

家柄重視の結婚だけにある意味理想の婚約者なのかもしれなかったが、ライザール様と相性は悪そうね。

 

そういう意味では素直に好きな方の胸に迷いなく飛び込んだレイラさまに憧れてしまう。

 

結婚願望があるわけではないが、それでも割り切った夫婦生活を送りたいとは思わなかった。

 

まあ、密偵の私が結婚する可能性なんて限りなく無いわね。出会いなんてないも同然だもの。思惑があって近づいた仕事相手と恋に落ちるなんて無理でしょ?仮にあったとしても一夜の恋がいいところだわ。

 

王ですらままならないのに密偵の私が幸せになれるとでも?