それにレイラさまの貞操を守るためなどというのは方便だった。
もし万が一にでも男児ができれば世継ぎに選ばれる可能性は十分あるのだから彼女達にとってもチャンスだったのだろう。
若い侍女ばかりが選ばれているのはそのための配慮だった。
しかし私の耳に入れることではなかったせいか、私付きの侍女が咎める。
「これ、余計なことをレイラさまにお聞かせしないように。あ・・・レイラさま誤解をなさらないで、ライザール様はああ見えて手の早い方じゃありませんから。まだ誰もお手付きにはなっていませんわ。ご安心なさって」
私に気を使っているのだろう。それが嘘でもなんだかホッとしてしまう。
主の身代わりになることも彼女達の仕事のひとつなのだろうから責めることはできなかったが、より気分が憂鬱になってしまう。
「でも『今夜』は呼ばれたのでしょう?」
私が勘付く可能性をライザール様が考慮したかはわからないし、そもそも彼は王なのだから誰かに気兼ねする必要もないのだけれど、それでもそんなデリカシーのない情事が公然と行われる事実に動揺してしまう。
詮索したっていいことないし、初めての私に彼の相手は無謀すぎた。
愛をかわすわけでもないただの欲望解消として経験豊富な侍女の誰かが彼に今宵抱かれるのかと思えばなんだか気分が悪かった。
これは嫉妬なのだろうか?この感情の名がなんであれ見て見ぬふりすることが私にはできなかった。
たぶん意地を張って無視を決め込んでしまえば二度とライザール様に寄り添うことはできず後悔する気がした。
そんなに私って潔癖だったのかしら?彼に恋してるわけでもないのに、ムカムカしてしまうなんて。
ともかく私はレイラさまではなく彼女の身代わりなのに、さらに身代わりを立てるなんて道理に合わない気がした。
密偵としてライザール様の依頼を引き受けた以上全うするのが筋だった。
「いいわ・・・衣装を貸しなさい・・・私が相手をするわ」
私の言葉に侍女たちは動揺する。本物の主の留守に王の種を盗もうとした期待が外れたせいか、それとも本当に私のことを心配してなのか彼女たちの顔に浮かぶ失望と不安と安堵からは読み解けない。
改革派の王が閉鎖したためシャナーサにはとっくにハーレムはないはずなのに、いまだに女たちの欲望と渇望が渦巻いている場所なのだと改めて思う。
しぶる侍女を説き伏せ準備を整えた私は戦いに赴くような心地でライザール様の寝所へと向かった。