案の定寝所に顔を出した途端ライザール様は複雑な面持ちになった。

 

酒の支度をしていた手が止まる。

 

――あれはまさか?

 

ほのかな香りと瓶に書かれた異国の文字に覚えがあった。

燐帝国特産の秘伝の酒だったが、慣れぬものが飲むと悪酔いしてしまうといういわくつきの酒だった。

 

捕虜の尋問にも使用可能な美酒を使うつもり?

 

侍女達に飲ませて楽しむつもりだったのだと思うと不快感が増す。

でも彼女達の淡い期待を奪ってまでここまで来た以上私も覚悟を決めるしかなかった。

 

「ライザール様、今宵は私が情けをたまわりたく存じます」

 

咎められる前に侍女から言われた通りの作法で王におもねる私に注がれる彼の視線が痛かった。

 

本来はまだ婚約者の私が彼と閨を共にすることはないのだが、本物の婚約者でないのだから彼もそこまで気にしないだろう。

 

「なぜ・・・お前がここに?侍女に聞いたのか・・余計なことを」

 

ひとりごちるライザール様の言葉にかすかに眉をしかめる。

 

おそらくだけれど先ほど私を口説いたばかりだから彼なりにばつが悪いのだろう。むしろそうであって欲しかった。

 

本命には見せぬ裏の顔など誰にでもあるだろうが、はたして私はどの立ち位置なのだろうか?

 

まあ少なくとも彼の本命がレイラさまなら私はやはり仮初というところでしょうけど。

 

それでも平気でやりすごすことなんてできそうになかった。

 

「婚約者の侍女と寝るなんてずいぶんですこと。彼女への当てつけですか?」

 

詮索する気はないのにやはり尋ねずにはいられなかった。

彼の口からはっきりと聞きたい。

 

「ただの慣例だ。他意はない。だがそうだな、彼女が知ったところで気にもしないだろう。もし彼女が傷つくような女なら私だってそんなことはしない!」

 

 

やはり根底にあるのはレイラ様に対する怒りなのかもしれなかったが、高ぶった欲望を鎮めたいというのもあるのだろう。

 

「そうですか。・・・つまり誰でもいいのですよね?ならば私が務めを果たすのが筋ではないでしょうか?」

 

ただの方便ではあったけれど挑発としては十分だった。

 

彼のように慣れた男にとっては生娘の相手など煩わしいだけかもしれなかったけれど、そもそも花嫁の基本的な条件である以上不本意であっても避けては通れないはずだった。

 

それに互いに悪い話ではない。私は男を学べるし彼は手ほどきの練習と思えばいい。

 

もちろん気が立っている今夜の彼がどれだけ気遣いができるかわからなかったけれど。

 

気遣いをせずとも手っ取り早くあと腐れなく楽しみたい彼の気分とはどの道合わないことは百も承知だった。