牢には私一人だったし、拘束はされなかったけど地下だけに薄暗く異臭が漂う場所だった。
これから尋問をされるのか、それともこのまま放置されるのかは状況次第だろう。
もしかするとライザール様は仲間の接触を待ち一網打尽にしようとお考えなのかもしれない。いえ、おそらくそうだわ。ライザール様は保護と言われたけどそれが嘘であることはわかりきっていた。
あの方は私を利用されるおつもりなのね・・・せめてジェミルだけでも逃がさなければ・・あの子だけは巻き込むわけにいかないわ。
今の私は限りなく疑わしくても明確な証拠があるわけではなかった。
まさに崖っぷち状態だったけど、こんな状況であるのに私の心を占めるのはライザール様のことだけだった。
貴方の妻になりたかった。だけどこの想いはきっと叶うことはない。
私は偽物だし、貴方を騙したひどい女だもの・・好きになってもらえるはずなんかなかった。それがこれほど苦しいなんて・・
もしもの時のための小瓶も懐に潜ませていた。辱めを受けるのは一度で十分だった。
それはこの仕事に就く前に店主様からお預かりしたものだった。
店主様はジェミルのための治療薬だから渡して欲しいと言われたけど、一度目の暗殺未遂が起きた後、店主様の関りを疑いこの小瓶のことを思い出して調べて判明した。
店主様は私を使い邪魔になったジェミルを亡き者にされようとしていたのだ。それはとても重大な裏切り行為だったけど、ジェミルに告げることはできなかった。
もし知ればあの子は店主様を始末しに行くだろうから。
だけど私達ではあの方に逆らうことなどできはしないのだ。
それに私はジェミルと店主様を出し抜いてライザール様を守りたかったから。
店主様の暗示に逆らえない私にそんなことができるのかはわからないし、すべてライザール様に打ち明けた方がいいのかもしれない。
たとえライザール様が私を許してくださらなくてもあの方の命を守るためならば覚悟を決めなければ・・・