初めて視線を交わした婚約者はとても美しい女だった。
挑発的で自信に溢れていたがどこか影があり、私は一目で彼女に興味を持った。
あの眼差しが私の心をざわめかせるからだろうか?
私を幾度なく誘惑して翻弄しようとする彼女の目的は伺い知れなかったが、この宮廷に侍る者達の思惑などたかが知れていた。
欲望はそそられても、しょせんは戯れでしかない。私の心は冷めていた。
なぜなら私には誰にも悟られてはならない「秘密」があったからだ。
そう、私は「偽物」だったのだ。
真の王にこの国の統治を託されて苦節九年経ったが、この国は相変わらずだった。
血筋を重んじ、富を愛し権力を牛耳る欲深き者ばかりだ。
伴侶となる女もそんな女の一人だった。やれやれ・・
はたして彼女がもし私が「偽物」だと知れば、私の子を望むかな。そう思えば苦々しさがこみ上げる。だがそれは私もだった。
遺伝的疾患をもつからか、真王は血筋にはこだわらないと私に言った。
だが偽物の私が王として君臨する宮廷で真の理解者など得られるのだろうか?
これまでも幾度もの出会いがあったがすべてまやかしだった。
私を亡き者にしようとする裏切り者ばかりだったのだ。
それらの悪意は私の心を蝕み一層失ってしまった「彼女」への憧憬を強めた。
私が本当に子を欲するのはこの世でたった一人の「女」とだけだった。