彼がもし『姉』の身代わりの人形を欲しているのであれば方法は一つしか浮かばなかった。

 

「まずは確認が必要ですが、もし疑惑通りロラン様が一連の事件に関与されているならばやはり放置はできません。

 

あの方はあまりにも無邪気すぎます。愛を求めるあまりご自分が非道を働いていることに無自覚なのです。きっと捕まるまでやめることができないでしょうが、諦めたくはありません。

 

・・だから機会がくればクライデルには私が参ります」

 

私の覚悟に手を止めた店主様が瞠目される。

 

「本気なのかい?シリーン・・・・」

 

覚悟を問う店主様に頷くと彼は微笑を浮かべた。

 

「わかった・・・なら止めないよ。君ならやり遂げることができるだろう・・・だがライザール王はどうするんだい?愛しているのだろう?」

 

 

それはそうだったけれど・・・私は欲張りなのだ。

ロラン様も見捨てたくはないが、ライザール様も愛している

 

「ええ・・慕っております。だから今夜彼を誘惑しますが・・あの方に本気になっていただけるかはわかりませんもの。

 

だから店主様、私に1年猶予をいただけないでしょうか?ロラン様と向き合うには時間が必要になるでしょうから。

 

そして1年経ちまだライザール様が私をお探しなのであれば・・あの方に伝えて欲しいのです」

 

充分考えた末の結論だった。人の心は移ろいやすいものだ。

姉の幻影に憑りつかれたロラン様を正気に戻すには時間がかかる。ライザール様を置いていく私を彼が許すかどうかは彼次第だった。

 

「わかったよ・・・シリーン・・・頑張っておいで。絵も最後の一筆で完成だ・・うん、我ながらうまく描けたようだ。」

 

店主様の渾身のヘナタトゥーが完成した。素肌に散った美しく複雑な模様の上から誘惑のための扇情的な衣装を着て準備は整った。

 

「では行ってまいります、マスター」

 

別れの挨拶をのべる私の額に店主様がそっと祝福のキスをくれた。

 

彼を残し私は一人ライザール様の部屋へと向かった。