それに私にできるのは忠告だけだった。
もちろん隣国であるルーガンでクーデターでも起きれば隣接するシャナーサもただでは済まないだろう。
ライザール様は聡明な方だけれど、ヴィンス殿下の協力がなければ動きようがない。
テオドール様が謀反を起こしたとしても、ヴィンス殿下を保護できれば大義は成り立つはずだ。
「いいですか、短慮を起こしてはなりません、ヴィンス殿下。テオドール様を問い詰めたところで確証がなければ彼はしらを切るだけですし、御身の油断につけ込み暗殺を謀る可能性だってあります。
むしろそれが一番手っ取り早いのにそうしない理由にはなにか根深いものを感じてなりません。だからこそ予測通り国許で変事が起きたとしても単身乗り込むような軽はずみなマネをなさればむしろ敵の思うつぼです。
万が一の折はライザール王の協力を仰がれませ・・貴方をかっている彼ならばきっと力になっていただけると思います」
怒りと混乱で憤懣やるかたない様子の彼の両頬を手で包み込み、その怒りに燃えた双眸を覗きこむ。
それは暗示だった。
理性的な彼でも怒りで我を忘れた状態であるなら操りやすい。
首謀者と思しきテオドール様を捕えるだけでクーデターを事前に防げるならばそれにこしたことはなかったが、テオドール様がすでに軍を掌握されているならば軍を中心に多数の者が加担しているだろうし全貌を把握できねば意味がない。
国王も危険にさらされていたが、男尊女卑の伝統を固持してきた男など守る気は起きなかった。