秘密をけっして暴こうとしない彼と私の仲は順調に深まりを見せていた。

 

当初の予定では私は死を偽装してライザール王との婚約を破棄する予定だったが、潜入した役割も果たせず、彼にのめり込んでしまった私の裏切りが店主様に発覚するのはまさに時間の問題だった。

 

私が密偵であることを知るライザール様にも打ち明けることはできなかった。

 

せっかく仲直りできた彼をまた猜疑心に駆り立てたくはなかったし、これが私の不始末である以上一人で対処しなければならないことだった。

 

それに今更言えるわけなかった、貴方の血が欲しいのだと。そうでなければジェミルも私も裏切りもとして処罰されてしまうのだと・・・

 

まさに八方ふさがりだった。

 

けれどやはりこのままというわけにもいかず悩んでいた時のことだった。

 

彼に出会ったのは・・・

 

「こんにちは・・貴女は王の婚約者の方だね?」

 

 

顔をベールで隠した男性だった。年はライザールさまと同世代だろう。

 

かすかに水タバコの香りが漂っていた。

 

香りが記憶を呼び覚ます。ライザールさはよくお一人の時部屋で水タバコをたしなまれているようだった。

 

そんなことを思い返しながら挨拶を返す。

 

「初めまして、レイラと申します」

 

ライザール様と二人の時はシリーンと呼ばれていたが、アリ家と話をつけたライザール様から対外的にはレイラと名乗るよう言い含められていた。

 

すると彼は笑顔で頷いた。

 

「ああ・・やはりそうだった。お噂どおり美しい方だ」

 

おそらくライザール様のお知り合いなのだろうけど、婚約者の身で見知らぬ男性と二人きりでいるところを見られては外聞が悪かった。幸い周囲に人気はない。

 

「あの・・私になにか?」

 

ただの挨拶とは思えなくてそれとなく窺う私に彼は頷いた。やはりなにか用があるらしい。

 

「こちらへ・・・貴女だけにお話したいことがあるのです」

 

促された私は彼の後に続く。案内されたのは旧ハーレムだった。今は閉鎖されており、見る影もないがかつてここは先王の後宮だった。