女の色香に惑い愚かな選択をしようとしているのだという自覚はあった。
だが理屈ではなくこの女は妙に私の古傷を疼かせ、そして驚くほど馴染むのだ。
だからこれからも手放す気はなかった。
必要ならばあの男の命を保障するためだという大義名分を与えてもよかった。
これからもこの女は私だけのものだ。
誰とも共有せぬし、誰にも渡さぬ。
思わず苦笑が漏れる。
自分がこんなに独占欲が強いなどと知らなかった。
しかも相手はどこの誰とも知らぬ女だった。
だが彼女はこれからも私が望む女でいてくれるだろう。
誰でもなく誰にでもなりうる、そんな女なのだから。
とはいえ名前がないのは不便だった。
レイラでもかまわなかったが、偽りの姿で私に求められるのを拒んだ彼女には新たな名前を与えた方がよさそうだ。
だが彼女は頑なに名乗ろうとはしなかった。それが意地なのかなんらかの心理的な葛藤からなのかはわからなかったが、ならばやはり私が考えるしかないだろう。
「―――シリーン」
遠い記憶の中で微笑む少女の名が自然と口をついて出た。
それはまぎれもなく私の願望だった。
「・・・・はい・・・なんですか店主様・・・」
!
寝ぼけているのだろうか。彼女が呟いた店主なる者が首謀者かもしれなかった。
だが今はそれより、名を呼んだ途端自分の名前を呼ばれた時のように自然と反応を返したことの方が気になってしかたなかった。
――やはりこの女は・・彼女なのか?
訝しむ私の視線の先で彼女はすやすやと穏やかな顔で眠ったままだ。
問いただしたかったが、疲れ果て眠る彼女を起こす気にはならなかった。
だが無意識化での先ほどの反応は私をいたく満足させるには十分だった。
お前が目を覚ますのが待ち遠しいぞ
だが今は私も限界だった。また私を裏切るかもしれない彼女の隣で眠るなど無防備で愚かな行為かもしれない。
それでも今はお前と共に眠りたい。
目覚めたお前が新しい名前を気に入ってくれるといいのだが・・・
それがささやかな私の望みだった。
