「まったくなんて事件なんだ。我が国でこのようなスキャンダルが起きるなんて忌々しい。やはりあの時にしておくべきだったか」
連行されるロランを睨み据え吐き捨てるように言ったヴィンスが、怒気を鎮めると改めて私に向き直った。
「この度は我が国の民の失態、まことに申し訳なかった。ご容赦されよ、ライザール殿。言葉もないが・・・大丈夫か?」
「ああ・・貴公の咎ではないからな。私もロランがあそこまで壊れているとは気付かなかった。それは貴公もだろう?」
計る為の常識の尺度が違っただけに気づかずとも無理はない。
「痛み入ります」
私の言葉にヴィンスは今一度目礼すると言った。
「貴公はこれからどうされる?その、彼女は大丈夫なのか?」
ナイトブリードとはいえ1年も干されたままなのだ。
心配は無理からぬことだった。
「ああ・・私に任せて欲しい。すまないがしばらく二人きりにしてもらえるか?」
本来なら速やかに現場を隠滅したかったのだろうが、この場所にはシリーンの姿しかなかった。
亡くなった少女たちはおそらく城の中庭かあのイベリスの丘にでも埋葬されているのだろう。
だがやはり今早急に解決したいのはシリーンの復活だけだった。
「ああ・・・わかった。ではまた、失礼する」
何かを悟ったのかヴィンス殿もまた兵を連れ速やかに退出して、室内は私と彼女と深紅のカナリアだけになった。
部屋を見渡した私の視線の先にロランが持っていた鳥かごがあった。
籠から人形を取り出した私は代わりにその中に深紅のカナリアを入れた。
カナリアは世話を待つべく大人しく籠に納まってピチュピチュさえずっている。
「さて・・・これでいい。あとは私の覚悟だけだな」
深呼吸をする。手順はすでに承知していたが、絶命と引き換えにしてでもシリーンを救いたかった私に迷いはなかった。