それから取り立てて何事もなく夕食を終えた私はヴィンス王と連れ立って部屋へと戻る。
明日が最終日だけに私は今夜決死の覚悟で城を散策するつもりだった。
ヴィンス王とそれとなく目配せをして別れた私は部屋に戻るや否や早着替えをした。
過去に父王への反発から王宮を抜け出しては義賊をしていた時期があった。
もっともさすがに義賊は卒業したが夜の町の散策は現役だった。
ライラ・ヌールと名乗り義賊をやっていた名残でいまだに私は髪を一房金色に染め抜いていた。
袖のない衣装なら身動きもしやすかろう。気が引き締まる思いだ。
念のため顔をベールで隠し、鞭を腰にくくりつけ準備万端整った私は、窓から月を見上げた。
新月ならなお良かったが空には三日月が浮かんでいた。
美しい月に彼女の横顔を重ねてふと感傷に浸ってしまう。
ピチュッ
その時私の耳に小鳥のさえずりが聞こえてきた。
見ると昼間の深紅のカナリアが窓辺に止まっていた。
部屋の中まで飛び込んできたかと思う間もなく、思わず差し伸べた私の掌の上にカナリアは止まった。
「・・お前が本当に奇跡のカナリアならば私をシリーンの元へと導いてくれないものか」
そうひとりごちた私にカナリアは一声鳴くとついてこいというかのように窓から飛び立った。
予感がした私も迷わずにカナリアの後を追い、窓から身を乗り出し、外壁を伝う。
この程度は朝飯前だった。
外壁を周ったカナリアは灯りの消えた窓辺へと止まった。
窓は開いていた。
風にそよぐレースのカーテンを手で手繰り寄せ私は中の様子を窺う。
辺りは静まり返り人の気配はなかった。
壁紙は華やかでどうやら淑女の部屋らしかった。
カナリアは部屋の中へと飛んでいく。
後を追うように私も音を立てないように室内へと侵入した。
まさか一国の王たる私にこんな世を忍ぶようなスキルがあるとは誰も思うまい。
周囲の様子を窺うがやはり人の気配はなかった。
贅を尽くした豪華な部屋だった。まさに女主人の部屋のしつらえだった。
ロランは独身であるし、もしかすると行方不明の姉の部屋なのかもしれない。
続き部屋となっており扉の向こうは寝室のようだった。