店主の言葉は真実だった。シリーンは誘惑者として私に捧げられた供物だった。

 

私は誘惑に負けその禁断の果実を口にしてしまった。

 

「驚いたよ、あの娘が男に身体を許すなんてね。最初はヴィンス殿下だと思ったんだが・・・」

 

店主の言葉に私の脳裏に彼女との馴れ初めが思い起こされる。

 

次世代指導者会議で各国の王子たちがヒラール宮に会した時のことだった。

 

今にして思えばシリーンは舞妖妃としてあの会議に参加していたのだろう。

 

ルーガン王国のヴィンス殿下と、その共として参加したロラン殿と談笑する彼女を見かけた覚えがある。

 

「我が国の民が失礼した」

 

彼女の美しさに惹かれ、二人に絡まれるシリーンを見かねて咄嗟に助け船を出した。

 

私の視線に気づいたのだろうか、視線が絡み、助けを求める彼女を放っておけなかった。

 

それからも彼女はヴィンス殿下と一緒にいるようだった。

その姿を見るたびに心がざわついた。

 

私は特に手配していないが、彼も男だから近習が慰みに用意したのだろう。

 

「ルーガン王国のテオドール様からご依頼をいただいてね。ま、正確には亡国の王子ロラン様からのご依頼だったんだが・・・」

 

私の追憶に店主の声が被る。

 

「ロラン様の姉君、行方知れずのパメラ様を探して欲しい・・彼女の居場所はヴィンス殿下が知っているだろう・・とね。なんだか今回の話にそっくりだ」

 

 

私もその名に聞き覚えはあった。数年前にクライデル帝国は隣国のルーガン王国に滅ぼされ王族はことごとく処刑されたと聞く。

 

その処刑を敢行したのがヴィンス殿下だった。

 

当時王子だったロラン殿は城の隔壁の中に捕らわれており、その時解放され生きながらえたと聞く。

 

かの国はまさに女尊男卑ともいう因習のある国だった。

 

ロラン殿もまた例外ではなく城の奥に幽閉され女達の慰みものになっており、まともな教育も受けられず虐待された被害者であると判じたヴィンス殿下は彼を手厚く庇護したらしい。

 

その因縁のある彼らが共に連れ立って我が国シャナーサへと来たのだ。

 

それとなく窺っていたが私の懸念を余所に彼らに諍う様子もなく安心していたのだが・・

 

だがロラン殿はパメラの失踪にヴィンス殿下が関わっていると疑念を抱いていた。

 

心に毒を抱いたままそれを見せないように振る舞っていたということだ。

 

記憶にあるロラン殿は意志薄弱な様子で見た目も勇猛果敢なヴィンス殿下とは対照的にひ弱で少女のごとき出で立ちの優男だった。

 

その二人が事あるごとにシリーンに付きまとい、二人をあしらう彼女の姿が印象に残っていた。

 

「では貴方がシリーンにその依頼を振ったのか?」

 

シリーンが密偵であったならそういうことだろう。

彼女は女の武器を使いヴィンス殿下を籠絡して情報を聞き出そうとしていた。

 

「ま、そういうことだね。けれど殿下もなかなかしたたかな方でねえ。そもそもルーガン王国の方だから」

 

苦笑交じりに店主が言う。

ルーガンは稀に見る男尊女卑の国だった。

 

我が国もいまだ古い因習が根強く残るが、あの国は常軌を逸している。

 

女性は男の言いなりで口を聞くこともなく、夜の営みの時すら声を発することすら許されぬという。

 

興味深いが反応のない女などつまらぬではないか。抱く気も起きない。

 

そんな特殊な因習を持つヴィンス殿下とシリーンは会議の間中同伴していた。

 

 

どれだけ関係を深めようともしょせん旅情にすぎないだろうに。