がっくりとうなだれる俺をよそに振られたって聞いた途端機嫌を直した現金なナディアを横目で窺う。

 

きっとまだ失恋どころか恋愛だってしたことないだろうぜ

 

ピュアな小娘相手になにをどうすりゃいいんだか

俺だってさほどコイツと変わんねえし

 

それにきっとコイツの結婚はあの族長サマが決めんだろうし

 

コイツには情けねえとこばっか見られてるからすっかりへたれの安全パイ男だと思われているみたいだが、

 

コイツの親父はキャラバンを率いる族長だけあってあっさりと俺の裏の顔を見ぬかれちまった。

 

まあ失恋した痛手からさっさと立ち直りたかった俺は普通なら女に走るところを

 

武者修行がてらに道場破りよろしく各国の闇組織を潰して回ったからな。

 

(一応手加減したから死んでないハズだ・・・おう、シリーンとの約束は破ってねえよ)

 

その揚句行き倒れてたわけだが。

少しは世の中マシになっただろうさ

 

現役のアサシンじゃなくなったからといってお礼参りにくるアホどもを牽制できるし一石二鳥だった。

 

そういやシリーンの別人格「ライラ」の噂もその途中でたびたび聞こえてきた。

 

仕損じたことはこれまでないパーフェクトなアサシンの鑑だって話だったが、消息不明になりいまや噂に尾ひれがつき伝説と化していた。

 

もっともアイツが狙うのはダークサイドの大物ばかりだったらしいけど。

 

そんな冷徹な女が矛先を収めたのが他でもない名君と名高いライザールだった。

 

シリーンの話ではアイツ自身がライザールを選んだ夜からライラは現れなくなったらしい。

 

あの女は確かにシリーンの魂を守るためだけにいたんだろう。

 

俺はずっと傍にいたのに全然気づかなかった。

俺がアイツに知られたくなかったように、アイツも気を使ってたってことか。

 

お互いに持った秘密が俺達を遠ざけた。

大切だったからこそなんだよな。

 

そう思えば恋人になることは無理でもやっぱり俺達には絆があるんじゃないかって

 

もちろん俺みたいなアサシンと王妃になったアイツが関わるのはよくないのかもしれねえけど

 

もしもう一度俺が日の当たる場所に這い上がれたなら

その時はもう一度家族としてアイツに会ってもいいだろうか

 

 

「もうなによ~まだ凹んでるの!ジェミルしっかりしろ」

 

もくもくと作業する俺の姿を凹んでると受け止めたらしいナディアが俺の背をぴしゃりと叩く。

 

「いって~そんなんじゃ嫁の貰い手がなくなるぞ」

 

「なにお~~むかっ

 

黙って笑ってればナディアはなかなか可愛い・・と思う。

あと数年もすれば激変する可能性は秘めていた。

 

俺は15歳のシリーンを知らねえけどさぞかし可愛かっただろう

 

昔はお転婆だったってシリーンは笑ってたが、もしかしたらこいつみたいだったかもな。

 

ちょっと想像つかねえけど

 

売り言葉に買い言葉の応酬とばかりにナディアが前のめりで言った。

 

「じゃあジェミルがもらってくれる?ドキドキ

 

「―――っ却下」

 

即座に断る俺をふてくされた顏のナディアが睨む。なんかくるくるかわるコイツの反応見てるの面白れーわ。気がまぎれるって~か

 

 

「親父殿はアンタのこと気に入ったってっさ。私も気に入ってるのに。理想ばかり追いかけてたらあっという間におじいちゃんになるんだからね」

 

ドキリとした。

ガキでも女は女ってヤツか。

 

女の方が精神年齢高いとかいうもんな。

 

考えて見りゃあシリーンもわりと現実的な女だった。

元アサシンと現役の王様を天秤にかけて王様を選んだわけだし。

 

アイツの自称大親友のアイーシャもアホッっぽく振る舞ってたけど実は巷では有名な美意識高い作家で美の伝道師で熱烈なファンもいるらしいし実業家としても成功者だった。

 

それに比べて俺は・・・金もねえ健全ですらない青少年って奴だった。

 

捕まったらアウトな前科何犯ってシャレにもならねえ

確実にウチの国じゃ命がいくつあっても足りねえわ

 

(あ~~やっぱ帰るのやめっかな~)

 

思わず遠い目になる

 

空は青く砂漠はどこまでも広くシャナーサへと続いていた。