手紙

 

ご機嫌うるわしゅうございます、ライザール王、

この度のご婚礼は本当に素晴らしくて感動いたしました。

 

あの娘に名乗ることはできませんでしたが、何卒末永くご寵愛くださいませ。

 

あれからもう何年経ったのでしょうか、貴方が私の前に現れた夜のことは今でも昨日のことのように思えてなりません。

 

どうか噂のことはお気になさいませんように。

私は夫の計らいでこうして無事なのですから。

 

それはともかくあの時、貴方に愛するシリーンを託したいと思ったのは女の勘でしかございませんでしたがあながち外れでもなかったようです。

 

貴方はずっとシリーンのヒーローだったのですから。

 

あの娘は貴方を探して早くに家を出てしまいましたが、結局私は

籠の鳥のままであの娘のためになにもしてやれなかった。

 

だからこそあの娘が貴方と出会い運命を切り開くことができたと知った時は本当にうれしかった。

 

成長したシリーンをもう一度この目で見ることができるなんて

・・・願いが叶うなんて

 

ああ・・・本当にまだ私の心臓が鼓動を刻んでいるなんて

・・なんて幸せなことなのでしょうか

 

ライザール王、貴方はご立派な方です。王となられた今でもその情熱は損なわれておられなかった。

 

貴方にならこれからも安心して娘を託すことができます。

 

そんな貴方だからこそ信頼してお知らせしたいことがございます。

一つは私たちの寿命についてです。

 

私の父はフレイル帝国出身の医者でございましたが、結婚を機に家を出てからもうずいぶんと会っていません。

 

その父から言われたのでございますが、私はあまり長生きができないだろう、と

 

短命だからこそ愛する方と結ばれて子を成したいと強く思ったものでございます。

 

私はすでに36になりますが、立派に成長した娘も嫁いだことですしもう思い残すことはないと思っておりました。

 

けれど最近思うのです。少しだけ欲がでてしまったと申しますか

できましたら私が身罷る前に孫の顏をぜひ見せてくださいませ。

 

あの娘が貴方の愛を受け母となる日が待ち遠しくてなりません。

 

そう思いましたらいてもたってもおられずに筆を執ったしだいでございます。

 

もちろんあの娘が王妃である以上、一国の命運を担うお世継ぎ問題に私ごときものが口を出すことなど恐れ多いのですが

 

御無礼をお許しくださいませ。

 

私の寿命のことなどを突然申し上げてしまい戸惑われたと思いますので、もう一つ付け加えさせていただきますが

 

私の父は「遺伝子」の研究などをしておりまして、短命の私のことを常に気にかけてくださいました。

 

そこで父が注目したのが長寿で健康な身体に恵まれたアリ家でございました。

 

短命な私と健康で長寿なターヘル様との間で成した娘がシリーンでございます。

 

父が申しますには、おそらくシリーンは我が夫の長寿の遺伝子の影響を受けるだろう・・・と

 

私はともかく愛する娘がもう『桜』ではないのだということがどれほど嬉しかったか。

 

だから末永くあの娘を愛して見守ってやってくださいまし

 

どうか・・一日も早く子を成しあの娘にも母となる感動を味あわせていただきたいのです。

 

そしてできることならばせめて貴方だけはあの娘の本当の名を呼んでやって欲しい

 

それだけが私の心からの願いでございます。