やがてお互いに顔がはっきりと見える位置で男性は立ち止まると様子を恐る恐る窺う私達に気安く声をかけてきた。

 

 

「未来のシャナーサ王妃になられる方とお見受けいたしますが?」

 

ベール越しなのでやはり顔は判別できなかったが、褐色の素肌の青年は落ち着いたものいいで涼やかな声だった。

 

「はい・・レイラと申します。ライザール様のご友人の方でいらっしゃいますか?」

 

恐らくそうなのだろうと思いながらそれとなくライザール様を窺うと、彼は頷いてくれた。

 

「ああ。紹介しよう、レイラ。こちらは私が懇意にしている水タバコ商人だ。・・・ところでそちらはどなたかな?宮殿では見かけないが」

 

親しくなってもふと緊張をしてしまう瞬間がある、そんな方だったが、当然の疑問だった。

 

 

「あ・・・こちらは私の屋敷で仕えてくれていた侍女の『アイーシャ』ですわ、ライザール様。結婚が決まりましたので身の回りの世話をしに来てくれたのです」

 

ごく自然に嘘を言う自分に嫌気がさす。これからどれだけこの方に嘘をつかなければならないのかしら。

 

――ごめんなさい、ライザール様

 

「ふうん・・・アイーシャ嬢、大変お美しい。お近づきになれて光栄です。まさに美の女神だ。こんな美しい方がシャナーサにいたとは。」

 

密かに落ち込んでいる私をしり目に、水タバコ商人がアイーシャの手を取り甲に恭しく口づけながら熱心に口説く。

 

なんとなくだけれど、アイーシャの左手の親指と人差し指の付け根にあるホクロを見ている気がした。

 

突然の友人の行動にライザール様も驚かれたようだった。

 

「まあ、美しいだなんて・・・からかわないでいただきたいわ

・・それとも本気にしてしまってもいいのかしら?」

 

頬を染め瞳を潤ませ満更でもない様子のアイーシャに私も唖然となる。

 

カマルの手伝いをしていただけに客あしらいは長けていたけれどこれまでこんなに乗り気で乙女のように純情そうな彼女の姿は見た事なかったかも。

 

「私はいつでも本気ですよ。美しい貴女にどうかこの心を捧げることをお許しくださいませんか?

 

もっとも私はしがない水タバコ商人でしかありませんがね。

どうか私にチャンスをくださいませんか?・・・アイーシャ様」

 

かなり本気な様子の彼の熱意を前にアイーシャはふと無言になった。

 

いきなり初対面の男性にここまで熱心に口説かれたら悪い気はしないかもしれないけれど

 

・・ライザール様が心を許しているくらいだから人柄も立派な方だろうと思うけれど・・・

 

「結婚前提のお付き合いなら考えてもいいですけど」

 

!!

 

アイーシャの言葉には驚いたけれど、自由恋愛ではなく親が取り決めた結婚が普通の我が国ではやはり珍しいことだった。

 

出会ったばかりの男性からの求愛に応えたいと思うこと自体不思議だったけれど。

 

でもアイーシャもそれだけ真剣だってことなのね。

 

「私は貴女をずっと待っていた気がするのです。必ず貴女を幸せにいたしますからだからぜひ私の妻になってくださいますか?・・・アイーシャ様」

 

「ええ!!喜んで!!謹んでお受けします。私こそしがない侍女ですけど貴方の妻になりたい」

 

まるで吟遊詩人の即興詩のような展開になってしまったが、

 

水タバコ商人の求愛を受け入れたアイーシャの婚姻は

ライザール様立ち合いの元正式なものとなった。