「あ、そうそう。はい、これ」

 

気を取り直した私にアイーシャが手紙を差し出した。封蝋の刻印は店主様のものだった。

 

「店主様から預かってきてあげたよ~。あんたが結婚しちゃうならあの店もたたむってさ~さすがに舞妖妃がいないんじゃね~カマルも解散するしかないでしょ~?」

 

 

まさかそんな事態になるなんて思わなかった。

 

踊り子たちは大丈夫なのだろうか?

 

つい自分の幸せのことばかりだったけれど、メインダンサーだった私が抜けるということはそういうことだったのだと改めて思う。

 

「あ~大丈夫大丈夫!そんな顏しないで。

 

さすがにアンタレベルの踊り子はすぐに見つからないだろうけどさ~

 

踊り子たちの子のことはちゃんと考えるみたいよ?アンタにあやかって半分以上は男見つけて結婚しちゃうだろうし」

 

確かに若くて綺麗な娘ばかりの集団だったから現実問題としてそうなるだろうか。

 

シャナーサにおけるショービジネスの世界ではごくありふれた展開だった。

 

「そうなの・・あ、手紙読むわね」

 

アイーシャに断り私は店主様からの手紙に目を通す。

 

まずは私が密偵をやめてしまうことが残念だと綴られていた。

 

 

店主様・・・裏切ってしまってごめんなさい

 

たくさんよくしていただいたのに・・・恩をお返しできなかったことが心苦しかったけれど、どこにも私を責める言葉はなかった。

 

そこには私の結婚を祝福する言葉だけが並んでいた。

 

彼はまさに父のごとき存在だった。店主様に祝福されるのがなによりも嬉しくてじんわりと胸が熱くなってしまう。

 

手紙の末尾に追伸として結局レイラ様は見つからなかったとだけ記されていた。

 

レイラ様が無事であってほしい、

 

でも王に見初められて結婚するのが私である以上、戻ってこられても困ってしまう、そんなジレンマは相変わらずだった。

 

「ね、ね、店主様はなんて?」

 

手紙は封蝋されていたから、私は手紙を届けてくれたアイーシャに内容をかいつまんで話した。

 

「ほら~よかったじゃない。いなくなった『レイラ様』のことなんて気にしちゃダメよ。

 

本命の男を逃がさないでシリーン。そのためなら名前なんて捨てちゃえ」

 

 

アイーシャの言うとおりなのかもしれない。

 

確かに普通ではないけれど、他人に成りすましてライザール様に近づいたのは私なのだ。

 

今更レイラじゃ嫌なんて言う資格はない気がした。

幸せはまさの目の前だった。

 

あの方は私を愛していると言ってくださった。

 

私もあの方を愛している・・

 

しかも行きずりや一夜の恋ではなく結婚できるのだ

 

名を捨ててなお余りあるだけの価値はあるはずだ。