注本物のレイラ視点のエピソードとなってます(心の闇ダダ漏れなんで閲覧注意)
突然王と思しき男に求婚されて、その男に唇を奪われてしまって
それが本心なのか戯れなのかもわからずじまい
でも私には確かめる勇気がなかった
こんな時あの娘ならどうするかしら?
注がれる愛を当然のごとく享受できるあの美しい娘なら・・
疑うこともきっとないでしょうね
結婚を控えた身でどこの誰とも知れぬ男に唇を奪われたなど知られるわけにはいかなかった。
王との結婚は私にとってそれだけ人生を決める一大事だったの
あの男が王かどうかなんてわからなかったし、結婚当日まで互いのことを噂でしか知らないなんて当たり前のことだったのよ
あくまでも家柄重視の政略結婚なのだから
初めて感じた胸の高鳴り・・あれがときめきというものかもしれない
でも私の気持ちを知るものなどなく婚約の準備は粛々と進められた
娘を嫁がせてしまえば嫡男のいないアリ家はどうなってしまうのかしら
もしかすると父に隠し子でもいるのかも
そんな風に考えをめぐらせても、しょせん女の身では追及もままならず
言われた通り嫁ぐことしかできない私にできることなどなにもなくて
恋も愛も知らないまま、見ず知らずの男に嫁がねばならない
そんな覚悟を決めかねていた時だった。
なんと王の意向で嫁ぐのは一人ということになってしまった。
それを聞いた時私は落胆でなく期待に胸を高鳴らせた
あの方が王なら・・もしかすると本当に私を望んでくださったのかも
愚かな私は自分に都合よく考えてしまった
連日のように長女の私と次女のあの娘とどちらを嫁がせるか話し合いが行われているようだった。
結局選ばれたのは美しいあの娘だった。
私が残されたのは名目上は婿を取り、家を継ぐためだったけれど
どう言いつくろおうとわかる
シリーンが選ばれたのは美しく愛らしいから
こんな屈辱って!!
王は私を望んでくれたのではなかったの?
確かめる術はなくて・・結局シリーンが嫁ぐことになってしまった。
王を知らないあの娘があの方と結ばれるなんて・・
悔しくて悲しくて私の心に魔がさしてしまった
義賊なんて言う者もいるけれど私からすればただの忌々しい盗賊でしかないライラ・ヌールについに我が家は狙われた時のことよ。
浮足立つ使用人をしり目に私はお母様の部屋に行き、かねてから欲しかった宝石を手に入れた。
父がお気に入りのあの女に贈ろうとした宝石をお母様が奪った勝利の証だった。
ぜひそれにあやかりたかった。
欲しい物は奪わなくては手に入らないってことが身に染みたから。
でも私が盗みを働いたところを使用人が見ていたことに気づかなかった。
なんてことかしら。使用人の分際でこの私を非難するなんて
お母様のものを娘の私が手に入れてなにが悪いと言うの?
ちょっと・・・借りただけじゃない
でも噂になってしまった以上この宝石を身に着けることはもうできそうになかった。
血管きれるくらいに騒いでたお母様も私の顔を見て悟ったみたいに場を収めてくれた。
やっぱりお母様だけは私の味方だった。
でも噂って本当に面倒でやっかいなものね。
私はまだ宝石を隠し持っていたし、でも今更お母様に返すことなどできるわけないでしょ?お母様だって受け取るはずがない。
だって宝石は盗まれたんですもの。
でも盗んだのがライラ・ヌールでなくてもいいと思わなくて?
だからせめてお母様に喜んでほしかったから。
あの女に罪を着せた。
私の言い分が嘘だって皆わかっていたでしょうけど、そんなこと表だって騒げば父の叱責を受けるのは身に染みていたでしょうから
あの父ですら涙を呑んであの女を処刑させてしまった
邪魔者を排除するのって案外簡単なんだってこと実感したわ
でも私が父の愛を完全に失った瞬間でもあった。
父は私を許さなかった。
実の娘の私よりあんな得体のしれない出自の女を愛した父は、私に愛想をつかせて、背を向けた。
元々仮面夫婦だったお母様と父はケンカが絶えず、我が家は殺伐としてしまい居づらくなった私も家を出ることにした。