ライザール視点のお話です
それから気を取り直した我々は先ほどターヘルからもたらされた情報について話し合いを持った。
「さっそくだが気になる情報があったな、フレイル帝国・・か」
私の言葉にしばし考え込んでいたシリーンが口を開く。
「もしかするとそこで店主様とレイラ様は出会ったのかもしれません。・・店主様はなにか研究をされているようでした。
詳しくは知りませんが私も定期的に血液検査を受けていましたし。
おそらくですがあの方はフレイル帝国の出身だと思います」
!
「なるほど、もしそうならば利害関係が成立する可能性が高まったわけだ」
美しさを求め、美容整形を受けるためにフレイル帝国に向かったというレイラと最先端の科学技術を持った男が出会ったのだとしたら充分ありえた。
なんらかの研究をしているというならなんといっても金がかかるし富裕層のレイラは店主にとって良いスポンサーになっただろう。
先ほどターヘルは生前贈与をしたとか言っていたが、それは方便で援助を陰でしている可能性だって十分あり得た。
なんといってもあの男は娘には甘いようだ。
ふと不吉な予感がした。
美しいシリーンの母は寵愛を得ていたが、その娘シリーンに対するターヘルの仕打ちはあんまりな気がした。
逆に容姿のコンプレックスを抱えた娘のことは一見困った娘だと不満をもらし放任しながらも結局は甘やかしているのだ。
同じ娘なのにこの差はなんだ・・?
私は改めて違和感を覚えた。
「・・・ではレイラ様は望んだ美を手に入れることができたのでしょうか?」
シリーンの問いかけに私は頷く。
おそらくそうなのだろう。骨格すらも変えることが可能だという美容整形を密かに受けたのであれば、親が見てもわからないかもしれない。
「そうだな。だからこそ行方をくらましているのかもしれない。
人生やり直すために元の自分を名前もろとも捨て去り他人に成りすますことは可能だろう」
このシャナーサに置いてそれは充分可能だった。
まさに蛇の道は蛇である。
互いに必要なものを補い合えるパートナーに巡り合えたレイラが店主と持ちつ持たれつの関係になってもおかしくはない。
私はふとライザのことが脳裏に浮かんだ。
玉座から身を引き名前すら捨て隠遁生活を送るライザと
容姿も名前もしがらみも捨て去り行方をくらましたレイラ
彼らもまた似た者同士なのかもしれない。
だが・・・ライザがレイラに望んだものが美だったとは今もって思えなかった。
彼は互いに容姿のコンプレックスを持つ身の彼女を理解できると思ったはずだ。
そしてありのままの彼女を求めたのではないか?
だが親にすら否定され続けてきたレイラは美しくないと愛されないと思い込んだ。
うむ・・いやむしろありのままでいたいと望むか
あくまでも理想を追い求めるかの差なのかもしれない。
互いを求めながらもわずかな価値観のずれが二人の運命を阻んだのだとしたら
私とシリーンもそれは変わらない。
そもそも全てが同じ価値観の共有などできるはずがない。
それでも私たちはこうして出会い、会話や触れ合いを通して互いに歩み寄ることで共感し、妥協し
共に歩むための道を模索しあえる関係だった。
それすらままならぬ彼ら、いやレイラ自身が心の闇に捕らわれたままなのだ。
その証拠に念願だった美貌を手に入れたと思しきレイラはいまだに王の暗殺を諦めていないのだから。
一途な愛が憎しみに代わりもはや彼らに止める術がないのであれば私が止めるしかない。
それこそライザが密かに私に期待していたことではないだろうか。
代わりに命を狙われた私からすればまったくもって迷惑な話ではあったが、
王の立場でシリーンを求めてしまった以上私にも幾ばくかの責任があるようだ。
闇がより深くなる前にレイラを見つけなければ・・・
取り返しがつかないことが起こりそうな気がしてならなかった。