真実を求めての続きのエピソードです
それは新月の晩のことだった。
私の中からライラが去って心配事が一つ減ったはずだったけど、それは新たな杞憂をはらんでいた。
暗殺者が暗躍する絶好の機会だからだ。
気がかりなのはジェミルの存在だった。
ライザール様と親密になってしまったせいかジェミルの態度がどこかよそよそしいのには気づいていた。
はっきりいってターゲットと関係を持つことはタブーだった。
私のした行為は店主様との契約違反であることは重々承知していた。
ライザールさまには私が密偵であることを正直に打ち明けた。
そしてライラとして暗殺を行っていたことも・・・
ライザール様は理解を示してくれたけれど、なによりも彼がそんな私を信頼してくれたことが嬉しかった。
それはともかく私から話を聞いたライザール様はカマルに人を遣り様子を探らせたけれどもぬけの殻だったと報告を得た。
本来自ら率先して動かれる方が今回そのような方法をとったのはなるべくこちらの行動を悟らせないようにしつつ暗殺者の暗躍を視野に入れてのことだった。
店主様がライラだけではなくジェミルも送り込んでいたのは私を見張らせて報告させるだけではないだろう。
恐らく私が実行できなかった時ジェミルに任務完遂させるためだ。
ライラの鋭敏な感性を共有したことでこれまでわからなかったものが明瞭になってしまった。
店主様の異常性、そしてジェミルがアサシンだということ。
何故気づかなかったのだろう。
ヒントはそこら中にあったというのに。
私が現実から目をそむけていたせいであの子には辛い想いをさせてしまった。
優しいジェミルがなぜあれほどまでに店主様を毛嫌いするのか今ならわかる気がする。
あの方は本当に恐ろしい方だ。
何度も私に暗示をかけ不都合な真実を覆い隠そうとした。
私が店主様を慕うのはライザール様は「暗示」のせいだっておっしゃったけど、はたして本当にそうだろうか?
確かに私がこれまでされたことを思えば憎んでいいはずだった。
ルトの大切な相棒だったカルゥーに麻酔弾を撃ち連れ去ったのは彼なのだから。
私を支配して記憶を消して密偵として仕込んで己の欲望のために利用しようとした。
私はあの方の人形同然だった。
けれど・・たぶんそれらすべてがまやかしだったとしても、私は店主様を心から憎むことはやはりできなかった。
歪で醜悪でもあの方は確かに私を愛してくれた。
まるで娘のように・・・
私もたぶんそれが居心地よかったのだ。
だからこそライラはあの場所に仮住まいを作った。
歪んだ愛し方しか知らないあの方に応えるにはああするしかないと私も思っていたのだ。
気づいたら馴染んでしまうほど
・・それだけ店主様とは長い付き合いだった。
けれどルトに再会して私は王として生きる彼を愛して選んでしまった。
だからたとえ店主様を裏切ることになったとしても、ジェミルを悲しませてしまったとしても私がライザール様を守らねばならない。
店主様と過ごした優しい・・偽りの記憶が私を苦しめたとしても・・・
けれどまずはジェミルを闇から救い出さなければ
私はジェミルの想いに応えられなかったけれど、アサシンなんて続けて欲しくなかった。
ジェミルは私を綺麗だといってくれたけれど、私の手はとっくに血にまみれている。
弟同然のあの子にだけは知られたくなかった。
それはきっとあの子も同じはず・・
だから誰よりもきっとわかってあげられた。
ライラの罪も痛みも欲望も全てを受け止めたのだから。
光を失った月を見上げた私は深まる闇をまといシリーンとして行動を開始した。