「光を求めて」の続きのエピソードです

「レイラはどこにいる?」

 

尋ねた私にシリーンは困惑顔で応えた。彼女にとってはただ成りすましていた対象でしかなく利用されただけのシリーンはレイラの悪意に気づいていないようだった。

 

レイラがシリーンの母親を陥れたことを先ほどまで忘れていたのだから無理もなかった。

 

レイラにとって都合の悪いことを店主はシリーンに暗示をかけることでその都度記憶の改ざんを行ったらしい。

 

刷り込みを行われたシリーンは店主を信頼していたというが、いったい何者なのだろうか?

 

だがやはりまずはレイラだった。レイラが王の暗殺を画策している黒幕であるならやはり放置はできない。

 

「ごめんなさい・・・私、レイラ様のことはよく知らなくて」

 

 

「それは覚えていないという意味か?」

 

大貴族の屋敷だ。同じ家にいたとしても母親が違う以上、顔を合わせる機会は少ないのかもしれない。

 

「そうではなくて・・・考えてみれば子供のころにレイラ様かしらという女性を一度廊下でお見かけしたくらいで直接顔を合わせた事はないの。身分も違うから紹介も受けていないし。それにあの方は常にベールで顔を隠したから」

 

それはなんとも不思議な話だったがこれでは埒が明かない。

新たな手掛かりを求めた私は今回の依頼について尋ねてみることにした。

 

「お前がレイラをやることになった経緯を教えて欲しい」

 

するとシリーンは気まずそうに目を伏せてしまったが、やがて意を決して語りだした。

 

「私が勤める「カマル」にある日、アリ家の使いだと名乗る方がやってきて・・私は自分の出自もレイラ様との過去も覚えていなかったから。王と娘のレイラの婚約が決まったのに肝心の娘が行しれずだから婚約者のふりをして時間稼ぎをしてほしいって頼まれたの」

 

 

王を欺く行為は重罪だった。もしそれが発覚したらアリ家は失脚するだろう。当の「レイラ」はもちろん手を貸した者たちはことごとく捕えられ厳罰に処せられてしまうのは確実だった。

 

「まったく・・・無謀なことをしたものだが、だがそのおかげでお前と再会できたのだからな。お前の罪は私が不問に処す」

 

頬を染めるシリーンを見つめながらその手の甲に唇を押し当てる。

 

いささか職権乱用かもしれなかったが、私はシリーンを責める気にはなれなかった。

 

恐らく店主とレイラは初めからグルだった。さも依頼が舞い込んだようにシリーンに信じ込ませて裏では王の暗殺を企んでいた。

 

シリーンは知らなかったが彼女の安全と引き換えにライラが直接店主と密約を結んでいたようだ。

 

考え込んでいたシリーンが顔を上げた。

なにか思いついたのだといいが。

 

「あの・・でもね。ライラってこれまでは私になにか危険が迫った時や新月の晩にしか現れなかったの。でも私が貴方に出会って関係を持ってしまってからはライラはしょっちゅう出ていたでしょう?だけどたぶんそれは店主様は知らないはず。だからまだ新月まではライラは動かないと思っていると思うわ。」

 

「つまり裏切りは発覚していないということか?」

 

会った当初からライラが私を偽物だと知っていたなら、私に会いに来るという口実でおそらく宮殿を彷徨い王を探していたはずだ。

 

だが王は見つからず暗殺計画は保留となっていた。

 

そのライラでさえライザが真王であると先ほど知ったばかりだ。

 

王の正体は私とライラの記憶を得たシリーンしか知らないのだから。

 

敵はそのことを把握しておらず、情報が錯そうしている今なら偽情報を掴ませれば敵の動きを掌握できるかもしれなかった。

 

店主の狙う王がいまだに私だと思っているなら少なくとも新月の晩に行動を起こすに違いない。

 

「やってみる価値はあるかもしれないな」

 

 

こうして私は己を囮にして「店主」を確保する計画を立てたのである。

 

とはいえ今のところ確かな証拠の無い店主の罪を問うには実際に私の襲撃が行われなくてはならない。

 

宮廷に潜むライラ以外の暗殺者を捕まえることができればその者の口を割らせれば状況証拠が揃うはずだ。

 

争い事は好まないライザは蚊帳の外におくつもりだった。

 

だから協力者はシリーンだけだ。

 

針のようにうっすらと光る月を見上げる。

 

不吉な予感がする。闇が深まろうとしていた。