「光を求めて」の続きのエピソードです
そのシリーンの母だが、親族の愛人などではなく実はターヘル・アリの第二夫人だったのだ。
だが恐妻家のターヘルは妻の逆鱗を恐れ親族の愛人という体を装っていたらしい。
愛人ではなく第二夫人であるならシリーンは養女ではなくターヘルの実子、つまりレイラとは異母姉妹ということになる。
そういえばいつだったかライザから確かにそんな話を聞いた記憶があった。
王に嫁ぐはずだったのは異母姉妹だったと。
二人もいらないので一人にしてもらったという話だった。
共に王に選ばれるはずだった仲の悪い異母姉妹。
当時密かにレイラを見に行ったというライザは同情とある種の期待からレイラを望んでいた。
ライザは美醜を判別できなかったと言っていたが、もしかするとレイラへの気遣いからあえて私には語らなかっただけかもしれない。
しかし大人の事情で、より寵愛を得られるだろう美しいシリーンが選ばれた。
もしかするとレイラが画策したシリーンの母親の処刑騒ぎも婚約破棄を狙う目論見があったのかもしれない。
だが欲に目が眩んでいたターヘルは見事に揉み消した。
かん口令が敷かれ、シリーンさえ母親の死の真相は断片的にしか知らなかった。だが人の口に戸は立てられない。口さがない者達の噂が彼女を苦しめることとなったのだ。
「誰が何と言おうと、私はライラ・ヌールを信じていました」
そうシリーンは私に打ち明けてくれた。だからこそ「ルト」としての私に出会った時もなんの遺恨もなく私の愛を受け入れてくれたのだ。
王との婚姻は粛々と進められて美しい娘は選ばれ醜い娘は返されるはずだったた
まるで東方に伝わる神話のようだった。
ライザが望んだのは実はレイラだった。
シリーンを選んだのはアリ家の都合でしかない。
だがシリーンが選ばれた以上、レイラからすれば「選ばれず愛されなかった」という事実が残るだけだ。
そこに闇が生じたのだろうか?
ライザが先ほど匂わせていた女とは恐らく「レイラ」だろう。
結局婚約は流れてしまい禍根だけが残ったが、再びそんなアリ家へ王との婚姻話が持ち上がった。
追放されたシリーンではなく、今度こそレイラが選ばれるはずだった。
しかし婚約者として宮殿に現れたレイラはシリーンだったというわけだ。
シリーンに頼んだクライアントが誰かは知らないが恐らくアリ家の者だろう。
ほとぼりがさめるのを待ち再び王に、より美しい娘を差し出そうとした。
だがその娘はただの娘ではなく密偵であり暗殺者でもあった。
黒幕はレイラだろうが、暗殺の件にアリ家がどの程度かかわっているかはわからない。
幾度かターヘルに会ったが、私がレイラに成りすましたシリーンを気に入ったことをいたく喜んでいたようだった。
罪を犯した娘のためにお気に入りの女を死なせてしまうあたりかなりの親ばかだったが、あの男にあるのは権力におもねることだけだろう。
だがもしかするとその一件が親子の間に溝を生じさせたのかもしれない。
そもそもシリーンは暗殺のことを知らなかった。
とはいえライラの本性を知っていたので警戒はしていたらしい。
だが肝心のライラは暗殺どころか私との肉欲に溺れてしまっていたというわけだ。
シリーンの居場所を確保するために私を誘惑したが、私がライザを庇ったことで私に失望したライラは過ちを犯そうとしたが、私を信じて思いとどまったのだ。
レイラ・アリは王を見限りそれどころか数年越しの逆恨みから「王の暗殺」を目論み、あまつさえ替え玉を憎む義妹のシリーンに押し付けその機会に乗じてライラには王の暗殺を実行させようとした。
王の暗殺を企むまでの強い殺意と悪意は一人の女の嫉妬から生まれたのだとしたらなんとも執念深い話だ。
しかも皮肉なことに当時王だったライザはレイラを望み叶わず、成り変わった私が選んだ「レイラ」は偽物だった。
よくよく運の無い女だ。
今後もシリーン以外の女を私が選ぶことはないが、なにより私が不満なのはこのままだと「レイラ」としてシリーンを迎えねばならないということだった。
できることならシリーンとして私は彼女を妻に迎えたかった。
だが王の謀殺計画が発覚すればアリ家にも累が及ぶのは免れない以上、ひそかに処理せねばならない。
レイラがこのまま王暗殺を諦めるとも思えぬ。
私を狙った暗殺騒ぎはこれまでもあったが全て阻止してきた。
しかしやはりどれほど警戒をしようとも元を断たねば意味をなさない。
かつて私が潰した闇の組織が関わっているのだろうか。
用意周到で執拗なまでに王の命をつけ狙う「レイラ」とはどのような人物なのか?また協力者と思しきカマルの「店主」も同時に確保する必要があった。
二人は現在どこにいるのか?
店主とレイラの間にどのような利害があるにせよ、まずは早急にそのクライアントと思しき女を確保せねばならない。