レイラの甘い誘惑&訝しい誘惑から続くエピソードです

 

追憶を切り上げ水タバコを吸った私がふと気配を感じて顔をあげるとちょうど当のライザールが顔を出した。

 

彼とは長いせいかこうして人気のない時間にひょっこり顔を出す時が会った。

 

「こんばんは、ライザール様」

 

人目が無かろうと彼は常に私をそう呼んだ。

 

ライオールの息子ライザールこそ王位を継ぐ者の名だからだろう。

ややこしいので彼のことはライザと仮名で呼ばせてもらう。

 

ライザは名もなきしがない水タバコ商人に扮し悠々自適な隠遁生活を満喫できて幸せなようだった。

 

だが国の現状を真剣に憂えているからこそ、君主に相応しくないと身を引いた彼だけに彼も私の同志であることに変わりなかった。

 

「貴方だったか。どうしたのだ、こんなに遅くに私になにか?」

 

珍しいこともあるものだと驚く私に笑顔を返した彼は私の隣に眠る彼女を目にとめた。

 

「いや、つい好奇心に駆られてね・・将来のシャナーサ王妃になる方を見に来てしまったよ。・・・その娘がそうなのかい?」

 

彼はレイラをマジマジと見つめた。

 

「ふむ。確かに美しい方だね。いやはや君が羨ましいよ。こんなに美しい方を妻にできるなんて。私も王に戻ろうかな」

 

満更でもないようなライザの口調に私は焦りを覚えた。

 

「おい、本気か?」

 

立場上彼が弟なのでつい砕けた口調になってしまったが、焦る私の姿に笑いをこらえながら彼が言う。

 

「もちろん冗談だ。その娘が「レイラ」じゃないとしても君は彼女を愛しているのだろう?」

 

 

いきなり核心をつかれて動揺を隠すこともできなかった。

 

「なぜ、そう思う?彼女がレイラではないとどうして言い切れるのか」

 

実のところ私も彼女が「レイラ」だとはもはや思っていなかった。

 

かつてライザからレイラが醜いゆえに婚約を破棄されたという話を聞いていたからだ。

 

「私はレイラを見た事があるのだよ。もちろん遠目だったが。まだ反抗期でね親が決めた婚約に反発もあってこっそり王宮を抜け出して彼女を見に行ったのだ」

 

 

体が弱いと聞いていたが意外と行動力があったことに驚きを隠せない。

 

「美醜を判別できるほど近くで見れたわけではなかったが、この娘とは別人だったのは間違いない。

 

確かにその娘は始終ベールで顔を隠していた。

 

私もそうだったから同情したよ。もしかしたら私たちは分かり合えるかもしれないと思ったのだが、

 

・・もし彼女が私を選んでくれたら私はきっと彼女を大切にしただろう。

 

これは後でわかったことだが婚約が破棄になったのはどうやら彼女のこだわりのせいらしい。

 

今ほどひどくはなかったが当時から私は皮膚疾患を患っていたからね、口さがない者達の噂の的だったのだがその噂を聞きつけた「レイラ」嬢が父親に泣きつき婚約破棄になったらしい。

 

ま・・あくまでも噂だが。かのターヘルがそれだけで婚約を破棄するとも思えぬし。いかに密偵を放とうと大貴族の内情などはかり知れないさ」

 

「それはなんとも奇妙な話だが・・・そうか。だが私は彼女が「レイラ」ではなくとも私の妻に迎えたい。そう言ったら貴方は反対するか?」

 

王が私である以上決めるのはあくまでも私の意思だったが、それでも共に王位を守る彼の意見を聞いておきたかった。

 

しょせん元庶民で愛情を重んじてしまう私に対し国の運営は時に非情な決断をせねばならない時もあるからだ。

 

だがライザは静かに首を振った。

 

「いや、私は君の決断を尊重したい。君には人を見る目もあるし天命を持つものだ。

 

それに孤独な王には癒しがなによりも必要だと思うからね、

 

愛しているのだろう?見ていればわかる。

 

それに私は予感があるんだ、彼女こそ君の探し人ではないかとね・・・彼女を大切にするといい」

 

 

「貴方もそう思われるか?」

 

それは私が確信を持ちながらあえて確かめずにいたことだった。