待つと言うのは忍耐が必要だ。
今夜「レイラ」が私の元に来てくれるか否か、それは私達の今後の関係に影響を与えるものだった。
美しい彼女を求める者たちは多い。
欲望にまみれた一夜の恋か永続的な愛かは知れないが、私はもちろん彼女との婚姻を成立させ妻に娶りたいと考えていた。
だからいざとなったらなりふり構わず求愛することも考えていたが、
だからこそ私は彼女の選択の意思を尊重したかったのだ。
彼女には他の男の影があるようだった。
誰にでも過去はあるだろう、それは私も同じだ。
心に秘めた想いというのはある。
いくら求めても得られない愛もあるはずだ。
だがそんな葛藤があったとしても私は彼女と結ばれたいと願っていた。
大切な思い出があったとしても「レイラ」は確かに私を望んでくれていた。
そんな彼女を愛しいと思う。それだけに他の女を思い描きながら彼女を抱くことは出来ずにライラに甘えてしまった。
奔放な女であるライラを私は結局愛することはできなかった。
彼女は私達男の望む純粋な欲望の化身だった。
それだけに一時はのめり込めてもそこに求める「愛」はなくむなしさばかりが募ってしまった。
誰しも愛の前に葛藤し惑ったとしてもいつかは覚める瞬間がくる。
そして私が出した答え、それが「レイラ」だった。
私の心に安息をもたらすことができる唯一の存在だった。
だからこそ誰でもない彼女に私を選んで欲しかった。
ライラとこのまま関係を持ちながら「レイラ」とも上手くやろうとは思わなかった。
ライラが影響力増せばいずれ「レイラ」は消え去ってしまう予感があった。
そこまで彼女を追いつめることなどできるはずもない。
私の葛藤が彼女を悩ませてしまったなら尚更だった。
だがいくら私が言葉を重ねようと、肝心の「レイラ」が自分で決めねばならぬものだと思う。
私を信じるのか否か。
婚約を交わした私自身自分の気持ちに折り合いをつけねばならなかった。
彼女より年上の私ですらそうなのだからまだ年若い彼女の葛藤はいかばかりだろうか。
しかも我々の婚姻は政略的な意味合いが強いものだったから尚更だった。
愛情だけで結ばれるなど夢のような話しだった。
私は愛はいつかは冷めるなどというつもりは毛頭ない。
互いを信頼し尊敬し対等な関係を妻になる女と築ければ上等だった。
できるなら愛を交わし真の意味で家族になれればどれほど幸せなことだろうか。
一国の王としてみたらささやかな願いかもしれなかったが、これがなかなか難しい。
前王時代の名残ともいうべきハーレムは運営費がかさむし今時女を閉じ込めるなどぞっとしない。興味もないので即閉鎖したが権力に群がる者たちの関心ごとはパワーバランスに終始しており、こぞって娘を差し出し我先にと私と婚姻を結ぼうとする。
強欲な彼らに最下層出身の私の持つささやかな願いなど理解できぬであろう。
愛する女を妻に迎え温かい家庭を築きたいなどといえば待つのは嘲笑だけだった。
魂胆が見え見えな彼らにうんざりした私がそれらを拒んでしまったため私と大臣たちの関係は一時は最悪になった。
だが家臣の中でも最大の派閥であるアリ家の婚姻を受け入れたことでなんとか地位は安泰となった。
もちろん強硬姿勢を貫く私だけにやりようはいくらでもあるだろうが、今回は大臣たちの折衷案を受け入れる形となった。
そうして出会った「レイラ」に不覚にも私は強く惹かれてしまった。
深窓の令嬢とは思えぬほど表情が豊かで頭もよく公平さも持ち合わせ、なによりも貧富の差に心を痛めていた。
欲望に駆られた女達と会話を成立させるのは難儀だった。
そこには思惑を秘めた駆け引きはあっても、純粋に会話を楽しむ余地はなかった。
彼女たちは私の話など聞いていないし適当に相槌をうつだけで言葉は素通りしてしまう。
手ごたえもなく独り言をいっているのとなんらかわらない。
家臣たちの中にはいまだに男尊女卑の傾向が強く、女性に教養など必要ないと本気で思っている連中もいる有様だった。
だが「レイラ」は稀に見る才女だった。幾度か語らううちに話題が豊富で機転もきき好奇心旺盛であることはすぐに私にもわかった。
まあ確かに夜の女達でも高級なクラスの者達にはそのような女達もいるかもしれないが。
だが一言で言えば私が彼女を気に入ったということが一番大きいかもしれない。
気づいたら彼女に夢中になっていた。
だが距離が近づくにつれ葛藤が大きくなり臆してしまった。
そんな私の前に現れた「ライラ」の誘惑に私は抗うことができなかった。
シリーンを失って以降真剣な恋愛を拒んできたつけなのかもしれない。
「レイラ」に惹かれながらも慎重で疑り深く心を簡単に与えられぬ私とそんな私に抱かれることを拒む彼女との間は「ライラ」がとりもつこととなった。
長らく続いた三角関係にもようやくピリオドをうつ決心を私はした。
あとはそんな私を彼女が受け入れてくれるか否か、彼女の覚悟如何にかかっているのだから。