何度めかのため息をついた私はすっかり頭に入った書類をサイドテーブルへと置くと寝返りを打った。
すでに遅い時間だったが眠れるはずもなかった。
レイラは来てくれるだろうか?
まさかこの私が、女が訪ねてくれるのを待ちわびることになるとは思いもしなかった。
それだけレイラ・アリと名乗る彼女は素晴らしい女性だった。
美貌と肉体美もさることながらあどけなさと妖艶さを併せ持つひどく魅力的な女だった。
彼女を振り向かせたいと願いながら、それでも私が躊躇ってしまったのは長らく私の心に住まうただ一人の女がいたからだ。
シリーン
私がこれまでの人生で唯一愛した娘だった。
出会った当初はまだ少女といっても差支えない年だったが、もし彼女が生きていたら・・・彼女の幸せを見届けぬまでは私は幸せになってはならないのだと頑なに思っていた。
だが悲しいかな私は一国を総べる王だったから望まぬ政略結婚を余儀なくされた。
そんな周囲の思惑により出会った女を愛せるはずがないと思っていたし、必要もないと思っていた。
私の命を虎視眈々と狙う刺客の可能性すらあった。
私は最大限に警戒していたし、それは彼女も同様だった。
最初は美しいが隙がなく心の読めない女だと思っていた。
親に因果を言い含められているのだろうと。
だから私に近づく機会を窺う彼女を心から締め出す日々が続いたが、気づいたら目で追いかけていた。
不思議なもので追われたら逃げ出したくなるが、距離を取られたら追いたくなるのが雄の本能とでもいうものかもしれない。
そんな彼女は事あるごとに私を誘惑したがそのあまりにも切実な様子になぜか突き放すことができなかった。
なにゆえ私を求めるのか答えの出ぬまま私は誘惑にのり彼女を抱いた。
互いに心を伴うものではなかったが、彼女はひどく嬉しそうだった。
たんに男が欲しかっただけなのかもしれないし、私の寵を得るための親の指示だったのかもしれなかった。
それでも彼女との秘め事は頑なだった私の心に一石を投じたことは確かだ。
余韻が残ったとでもいおうか、その小さな波紋が今私の心をかき乱していた。
だからといって相手は王妃となる女だった。
善良なだけの世間知らずな小娘に勤まるはずもなかった。
私が心から信頼できぬ相手においそれと任せられるものではなかった。
それになにより、愛もない女が私の子を産むのかと思うとたまらなかったのだ。
王とはそういうものだ、と私を諭したライザもかつて周囲が勝手に進めた婚姻をただ受け入れることしかできずに苦悩したこともあったのかもしれない。