→ライザール様と会うのが怖い

 

「ライザール・・あら、もう寝てしまうの?」

 

ライザールからの贈り物の宝石を身に着けたライラは、深夜遅くにライザールの私室を訪ねた。

 

ちょうど王は寝台に腰掛け書類に目を通していた。

 

連日会議に追われているせいか寝る間を惜しみ情報収集に余念がないようだった。

 

仕事中のライザールは至って真剣そのもので淫らな夜の気配は全くなかった。

 

だがライラの呼びかけに王は顔を上げた。

 

ガウンをまとった私を目にした王の顔には軽い失望が浮かぶのをライラは見逃さなかった。

 

(お目当てのレイラじゃなくて残念ってところかしら?)

 

彼の心境の変化にはライラも気づいていた。

 

レイラを求めながらライラの誘惑は拒まない男の気持ちなど知りたくもないが、今夜の面会をライラが望んだわけではなかった。

 

遠慮なのだと思う。

 

ライザールが所望するのがどちらか悩んだ末シリーンは今夜の逢瀬をライラに任せた。

 

傷つくのが怖いのかもしれない。

私を抱くライザールを許せないのかもしれない。

 

それは確かな拒絶だった。

 

ライザールの持つ二面性が彼女を追いつめてしまった。

 

どんどん臆病になる優柔不断なシリーンが悩むたびにライラの影響力は増した。

 

シリーンが二の足を踏むのならば私がこの男を奪ってしまってもいいのだろうか?

 

この男はこの男で正体を明かすことに躊躇いがあるのかもしれないが、そんなものは私の知ったことではない

 

そう、私はルトがシリーンにひた隠す秘密を知っていた。

 

ライラ・ヌールのせいで彼女の母親が処刑されたのだということを・・・

 

そしてシリーンは自分のせいでカルゥーを死なせてしまったことを悔やんでいる

 

互いを愛するからこその恐れだった。

 

愛を知らない私には彼らの葛藤が手に取るようにわかった。

 

こじれてしまった感情は迷走して真実を見失ってしまうかもしれない。

 

だがそれを乗り越えるのは彼ら自身でなければならない。

 

真実から顔を背け互いに傷つくことを恐れる彼らはともに私の存在を利用していた。

 

だからこそ私は「誘惑者」としてその願いを叶える。

 

迷うそぶりのライザールの前で私はガウンを脱ぎ捨てた。

 

――さあ、いらっしゃい・・・ライザール貴方の望みを叶えてあげる

 

素肌に宝石だけを身に着けた私の身体を目にしたライザールの双眸に情欲が灯るのを艶然と見返した私はその場に獣のように手足をついた。

 

 

ふわりとした感触が私の掌と膝を優しく包み込んだ。

毛足の長い絨毯が敷かれているので痛みはない。

 

女豹のように挑発しながらライザールの足元までたどり着いた私は好奇心の赴くまま黒い蛇と戯れる。

 

快楽に逃げ込んだ満足そうな彼の熱い吐息を聞きながらしばしの悪戯を仕掛けた。

 

拒めばいいのに

 

ふとそんな思いがよぎった。

 

大切なものこそ触れることを恐れるこの男なりの優しさなど自己満足でしかない。

 

私達貪欲な女はそんな偽善に満たされることなどないのだから。

 

床に手足をついたまま八つ当たりのように激しさを増す彼を背後から受け入れながら私はそんなことを考えていた。

 

誰しも永遠に快楽に身をゆだねることなどできない。

 

だが一瞬で暴走する際限の無い欲望に飲み込まれて後悔するのが怖くてライザールに応えたくても応えることができないシリーンの願望を叶えるため、欲望の化身である私が身代わりになるのだ。

 

彼女がこれからも清廉な彼女でいるために

 

・・・・それだけが私の存在理由なのだから