私だけを見て欲しい!

 

それがシリーンが笑顔にひた隠した本音だった。

 

だがおそらくライザールは額面通りに受け取ったはずだ。

現にライラと密会しているのだから。

 

それはシリーンが初めて感じた嫉妬だった。

 

もう一人の自分に嫉妬することになるなんて・・

 

だがそれを素直に伝えることができないのは、私が密偵で正体を偽っていて

 

―――大切な方がいるからっ

 

思い出すことすらできない陽炎のように触れることもできない彼のことがまだ心の深い場所にいるから・・・

 

卑怯かもしれない。己の本心を明かすことなく彼の気持ちを独占したいと願うのは。

 

初めて触れることができる異性に巡り合えた感動を恋と勘違いしているのかも・・・

 

この仕事を引き受ける前のこと、アイーシャに言われたことをふと思い出した。

 

「もう本当に真面目なんだから。そこ悩むところじゃないでしょ?恋なんてどんどんすりゃあいいのよ。私達若くて美しい女にはその権利があるもの。男なんてこの世に掃いて捨てるほどいるんだからさ。蜜に群がる蜂みたいなものよ。贅沢なのよシリーンは、婚約者の立場で安心してない?仮にも相手は王様なのよ?彼こそ選び放題侍らせ放題じゃない。いくらシリーンが美人でもうかうかしてたら他の女にとられちゃうかも。ま、イイ男なのにあの年で独身なんてちょっと気になるけど・・だからさ、素敵な王様を誘惑しなきゃいけない恋愛初心者の貴女にプレゼント!使ってみて!成功を祈ってるから」

 

そして渡された綺麗に薄紙で幾重にも包装されたプレゼントの中身は魅惑のランジェリーだったのである。

 

!!

 

フレイル帝国産の露出度が高めなセクシーな黒いランジェリーを前にシリーンはため息をひとつ零す。

 

ライザールの反応を考えるだけで頬が火照ってしまう。

 

落ち着くために頬をぱしっと叩いたシリーンはさらにその横に置かれたもう一つの豪華な宝石をあしらった飾り箱を手に取った。

 

中には宝石をちりばめた美しいチョーカーとアンクレットが入っていた。

 

それは今日の昼にライザールから贈られたものだった。

 

「気に入ってくれたか?・・・・お前の為に作らせた。サイズは大丈夫なはずだ。・・この手で確かめさせてもらったからな・・・身に着けたところを楽しみにしている」

 

 

わざわざ昼間を選び私が私の時に彼が贈ってくれたことが嬉しかったが、

 

こんな高価そうなものなら受け取らなかったのに・・・

 

けれど王からの贈り物を拒むことは彼のメンツをつぶすことになってしまうため返し損ねてしまった。

 

外国から取り寄せた珍しい花や菓子や香水を手始めに一夜を共にしてから彼はことあるごとに贈り物をしてくれた。

 

宝石は飴細工のようだったがこの一粒があれば貧困にあえぐ国民がどれだけ救われるだろうか?

 

だからついそう口にしてしまった。

 

するとよほど予想外の答えだったからかライザールは「おや?」とでもいうかのように眉を上げたが、すぐに満足げに爽やかな笑みを浮かべてその笑顔につい見惚れてしまった。

 

「いや・・笑ってすまなかった。殊勝ないい心がけだ。仮にも王妃になるお前には常に国民のことを第一に考える女でいてほしいからな。・・確かにお前の言うとおりだが、ここは黙って受け取って欲しい・・・いいな」

 

過分な贈り物ではあったが、考えてみれば「レイラ」は大貴族の子女なのだから庶民感情丸出しの我が身をシリーンは戒める。

 

あくまでも「レイラ」に相応しく振る舞わねばならなかった。

 

こう見えても審美眼には自信があった。

 

だてに豪華な宝飾品に囲まれて育ったわけでは・・・

 

 

なぜそんなことを思ってしまったのだろうか?

 

私は最下層の出身のはず・・・・よね?

 

たった今浮かんでは消えた疑問はすぐに霧散してしまう。

 

そんなことより重要なのはこのプレゼントの使い道である。

 

恋愛に詳しいアイーシャなら男からのプレゼントと下心はセットだというだろう。

 

つまり・・・ご所望ということ

 

私はどうしたら・・・・

 

どちらのプレゼントを使おうかしら?

 

→両方とも使う

 

決めたわ!!ちょっと恥ずかしいけれどアイーシャがくれたランジェリーとライザールさまからいただいた宝石をつけて今夜彼の元へ忍んでいきましょう。

 

こうして私は再びライザールさまを誘惑することとなったのだった。