添い寝する者の存在があったせいだけではなかったが、ほんの僅かな空気の動きや気配、微かな音であったとしても浅い眠りのただ中にいたライザールは目覚めたに違いない。

 

就寝中の暗殺をもっとも警戒していたライザールの眠りを妨げたもの、それは紛れもない殺気だった。

 

!!!

 

咄嗟に両手で眼前にかかげた鞭の柄で一撃を防ぐ。

灯りの消えた室内であってもそこは馴染んだ自室だった。

殺気を放つ侵入者はまさにライザールの身体の上に馬乗りになったまま短刀を今にも振り下ろそうとしていた。

 

「ふふ・・・・」

 

微かに笑った吐息がかかるほどの距離で暗殺者を睨み据えたライザールの顔が瞬時に強張る。

 

レイラ!?

 

それはまぎれもなく婚約者のレイラだった。

だがあまりにも雰囲気が違う。

 

確信をもつべく咄嗟に横目でみたがやはりそこに彼女の姿はなかった。

 

「・・・・くっ」

 

殺気を放ち執拗に短刀を振りおろそうとする女の手を掴んだライザールは怒りに満ちた双眸を輝かせて有無を言わさずその華奢な手から短刀をもぎ取った。

 

「ふふ・・・あはは・・・まずは合格かしら・・・気に入ったわ」

 

暗殺が露見したばかりだといのうにまるで動揺も見せず、悪びれた様子もなく先ほどまで濃厚に漂わせていた殺気もすっかり収めた彼女はいまだにライザールの上に馬乗りになったまま艶然と見下ろしていた。

 

―――この女は誰だ?

 

咄嗟にそう思ってしまうほど眼前の女は異質な雰囲気を纏っていた。

 

見た目は彼女だったが、纏う雰囲気や女王然とした傲慢な態度がまるで違う。

 

その双眸は妖しく輝き無情にライザールを見下ろしていた。

 

「お前は誰だ?」

 

暗殺騒ぎなど日常茶飯事だったし同衾した女の襲撃もざらにあることだった。

 

だが少々油断はあったかもしれない。怪しみながらも彼女にシリーンを重ねてしまったせいかいつもより感傷的になり危機を見過ごした己の甘さに苛立ちが募る。

 

「私はライラ・・・名乗ったことを光栄に思いなさい」

 

声質は同じだったが不遜な態度だけでなく話し方すらまるで別人だった。

 

「ライラ・・・だと?まあいい私を殺しに来たのか」

 

武器をとりあげたとはいえ相手はまだ諦めた様子もなく臨戦態勢だった。

 

「あはは・・・まさか。気を悪くしたなら悪かったわ・・名君と誉れ高いライザール王がどの程度か知りたかっただけよ。それに私が本気なら殺気に気づいた時には死んでるわよ」

 

私の脳裏に昔失ってしまった相棒だったカルゥーのことがよぎった。

 

黒豹に似たマウトグイータのカルゥーとじゃれるのは命懸けだった。

 

相手は遊びのつもりでじゃれても、人の皮膚など簡単に割けてしまう。

 

現に私の左の上腕には彼につけられた傷跡があるくらいだった。

 

そのせいかこの毒をはらんだ女の言葉にも私が動じることはなかった。

 

相手が男なら問答無用で即捕えるところだが、相手は女一人だ。やりようは他にもあった。

 

婚約者ならなおさらだった。

 

どこか遊戯を楽しむような気配が女からはした。額面通りに受け取る気はなかったが、こちらの反応を面白がっている様子だった。

 

「私は合格か?」

 

先ほどの会話の続きを促すと女は艶然と頷きながら、両手で私の頬を撫でた。

 

素手で相手を仕留める技がある以上油断は禁物だった。

 

「ええ・・・そうよ。お詫びをしないとね」

 

囁きながら女の手が妖しく動く。彼女の次なる目的を察した私は余裕を取り戻す。

 

 

どうやら攻撃的で刺激的な女なようだ。私にまたがったまま彼女は誘惑するように豊かな胸に垂れた白銀の髪をかき乱した。

 

「ねえいいでしょう?私とも楽しみましょうよ」

 

暗殺者は誘惑者へと鮮やかに変貌した。

 

もちろんこの誘惑が暗殺を仕掛ける女の手管の一環である可能性もあった。

 

→誘惑を受け入れる

 

だが初心だった彼女からは想像もつかないほど妖艶で闇をまとった彼女は鮮烈で美しくその誘惑を拒むことはできなかった。

 

だから私は彼女を見上げながらその太腿を掴むと一気に攻撃に転じた。

 

「ああ・・・すごいわ・・・いいわ・・・もっとよ」

 

淫蕩な本性をさらけ出した「ライラ」は私の上で快楽に酔いしれる。

 

どれだけ激しく攻めても欲望に忠実な彼女は屈することもなく私自身を余すことなく貪りつくす魔性の女だった。

 

快楽に弱くしおらしいレイラと冷めた眼差しで高飛車なライラ

 

どちらが本当の彼女なのだろうか?そもそも普段の彼女の態度がこの女の演技の可能性だってあったが本能が違うと訴える。

 

だが思惑はどうあれ二人が求めるのは私との情事だった。

 

婚約者として私はそれに応えねばなるまい。

 

気づかいながら行為に及んだ先ほどとは打って変わり私も遠慮なく己の欲望に従うことにした。

 

蛇の如く身体を濃密に絡めあい上下もわからぬほど快楽のまま互いを貪りあう

 

激しく軋む寝台の音と彼女の甘い嬌声を聞きながら、夜更けから夜明けまでその秘め事は続いたのだった。