(ライザール/ルト×シリーン←ジェミル)
だが彼が去ったと思った矢先、さらに一難だった。
「シリーン・・・あんな奴にキスさせたのかよっなんで!?」
!?
押し殺した声には隠しようのない殺気が漂っていた。
「ジェミルッ!?・・・あなたまさか今の見ていたの?」
最悪だった。私がこれまで守っていたものをあっさりターゲットに奪われてしまうところをよりにもよってこの子に見られていたなんて。
ジェミルが私を姉のように慕っているのは知っていたけれど・・
年々熱くなる眼差しが心苦しくて私は目をそむけていたのに・・・
だからこそ彼にだけは見られたくなかった。情けないと思われただろう。密偵の先輩として彼を指導する立場にあるのに我が身の体たらくが情けなくてしかたなかった。
「あの男でもいいなら俺でも・・いいよな?」
――え?
不穏な気配にハッと身を強張らせる間もなくジェミルに唇を奪われた。
!!!!!
嫌!!こんなのは違うっ!!
唇はふさがれていたので声を発することはできなかったが、気づいたら彼を突き飛ばしていた。
ジェミルのキスは奪うようでとても怖かった。
あの男たちみたいで・・
そんなことない!!ジェミルは私の家族も同然の子なんだから
決してあのケダモノ達と同じはずがなかった。
でも・・・でもどうしてなの?
「うっ・・・・うっ・・・」
両手で我が身をかき抱き身を震わせて涙を流すシリーンの姿にジェミルの熱がふっと冷める。
長年秘めていた想いだった。彼女だけを見つめていたのに。
大切な女を欲望のままに傷つけてしまったことがジェミルの心のバランスを欠いてゆく。
「・・・・ごめんっ・・・シリーン・・・・くっ・・・行ってくれ頼む!!」
そういうのが精いっぱいだった。彼女の身体から立ち上る甘い誘惑の香に抗うべきなのに・・・甘いお菓子に近づきすぎたようだ。
「ジェミル・・・?・・・大丈夫?」
「俺に近づくな!!黙って言うこと聞いてくれよ!!頼む!!」
!?
ジェミルの剣幕にシリーンは二の足を踏んだ。それはいつにないほど強い拒絶だった。
だがさすがに先ほどのこともあり、シリーンもジェミルのただならぬ状況を見過ごすことができなかった。
→ジェミルを置き去る
「私・・・行くね」
後ろ髪を引かれる思いでシリーンはその場を駆け去った。
「うわ~!!」
ジェミルの悲痛な雄叫びが徐々に遠ざかる。
これまで死守してきたのがウソみたいに同じ日にほぼ同じタイミングで二人の男から唇を奪われてしまった。
これはなんの因果なのだろうか?
だが決定的に違うのはキスの余韻だった。
危険な香りが漂うのに甘くて優しいライザールのキスと
一途で貪欲なジェミルの奪うような口づけ
私が欲しいのは・・・
→ライザールのキス
あんな気持ち初めてだった。
なぜあの男にだけ嫌悪を感じなかったのか理由があるなら知りたかった。
泣きそうなジェミルの顔を思い起こせば胸が痛かった。
今まで目を逸らしてきた彼の気持ちを垣間見てしまったから。
ごめんね・・・ごめんね・・・ジェミルッ
それでも私が知りたいのはライザールのことだった。
だから今夜仕掛けようと思う。甘い誘惑の罠を・・
着飾って香水を纏い、彼の心の扉を開けてその先に隠された秘密に触れてみせる
いつの間にか彼の肉体ではなくその気持ちを知りたいとごく自然に思っていた。
自分の心を見せずにそれが可能なのかはわからない。
私もいろいろなものを失うのかもしれない
けれど・・・けれどもし彼が知りたいと思ってくれるなら
いつか本当の私を全てさらけ出せる日がくるのだろうか?
月の光が差し込む庭に佇み煌々と輝く月を見上げるシリーンの双眸には女として密偵としての覚悟がみなぎっていた。