そうしてあっという間にコンテスト当日を迎えた。
主賓はもちろん皇驪さまで主催者はライザール様だった。
私も婚約者の立場で参加することになった。だがもちろん白娘子の姿になることは遠慮した。コンテスト参加者に花を持たせる名目もあったからだ。
まずは各々コスプレ姿を披露してゆく。クオリティの高さはまちまちだったが会場はそれなりに盛り上がりを見せていた。
さらに名場面の再現やセリフの朗読やなりきりで歌を披露するものまで出た。
緋色の髪を白に染め抜くほどアイーシャも本気モードだったので密かに応援してしまった。
――いい線いってるわよ!アイーシャ
肝心の皇驪さまの反応は常と変らなかった。曖昧な穏やかなアルカイックスマイルを浮かべ何を考えているのかわからない掴みどころのなさは相変わらずのようだった。
口元に優雅に白娘子を自ら描いた自作の団扇をあて退屈を紛らわしているようだった。主催者のライザール王のメンツをつぶさないための配慮からだろう。
一緒に同席されている希驪さまと希驪さまの同伴者として列席している美蘭さまも心配そうに様子を窺っているようだ。
もちろん正確には美蘭様が気にかけているのは希驪さまなのだが彼女の気持ちを汲み婚約を解消したうえ、後宮の解放を約束してくれた皇驪さまのことも見直したようだ。
美しさはそれぞれだがシャナーサ王国では珍しい鱗帝国の衣装に身を包んだ女性たちの華やかさは舞台の上で輝いていた。
やがてクライマックスに近づきいよいよ本命の登場だった。
白娘子に扮したロランさまが小青に扮したジェミルを伴い舞台に登場すると周囲は一瞬水を打ったように静まり返った。
周囲を圧倒する美がそこにはあった。
ため息がまるで漣のように広がり、誰しも目を奪われる美しい白娘子の姿が顕現していた。
どこか憂いを秘めた潤んだ瞳、影をまとった儚い美しさに皆胸をうたれてしまう。
コツンと音を立てて皇驪さまの手から団扇が落下したが、舞台の白娘子に魅了された皇驪さまは気づかれなかったため、美蘭様がかがんでその団扇を拾いあげた。
「美しい・・・貴女こそ白娘子そのものです」
演じるまでもなかった。これまでロラン様の背負ってきたものが空間を支配して他を圧倒する存在感をみせていたのである。
「彼の壮絶な美は内面から生じているのでしょうね。見事です」
「ええっ!?男!?・・・全然気づかなかった・・はは情けな」
さすがに会議でヴィンス殿下と顔見知りになった皇驪さまは同伴者のロランさまの正体にいち早く気づかれたが、希驪さまは中性的な彼にすっかり魅了されていたようだ。
「もう、希驪さまったら。でも・・確かに美しいですもの」
可愛く拗ねる美蘭をなだめる希驪さまの姿はなんだか微笑ましいものだった。
投票するまでもなくその場でロランさまはコンテストの優勝者となった。
こうしてライザールさまが主催したコンテストは大盛況のうちに幕を閉じたのであった。
「シリーン、あんな上玉いるなら早く言ってほしかったわ。でも全部出し切ったし悔いなしよ。生の皇驪さまも見れたし。美を磨いて出直すわ。それじゃあね」
入賞はできなかったがアイーシャはめげてないようだった。
彼女なら大丈夫だろう。
「ライザール王今夜は本当にありがとうございました。」
「楽しんでもらえたようでなによりだ」
社交辞令を述べる皇驪さまとどこか肩の荷が下りた様子のライザールさまをその場に残し私はジェミルの姿を探した。
ヘナタトゥーを落として以降ジェミルとも打ち解けて話せるようになってはいたが、女装までしてくれた弟に一言感謝を伝えたかったのだ。
「・・・シリーン」
人気のない場所まで来たところでジェミルに声をかけられた。
「あ、ジェミル今日は素敵だったわ。本当にありがとう・・」
「チッ・・・別に。あれくらいどうってことねえし。・・・・あんたの笑顔見れたし・・」
「え?」
もごもごと言うジェミルを視線で促すと頬を染めて黙り込んでしまった。
やはりもう少し女性に免疫をつけさせたほうがよいのかもしれない。
こんなにシャイでは悪い女に騙されないか心配だった。
「それはそうとロラン様は?」
ジェミルが知らぬこととはいえ姉弟でよい雰囲気になっても困るので話題を変えるとジェミルは肩をすくめながら言った。
「さあ・・なんか知らねえけど優勝者はあの鱗帝国のなんとかいう奴とデートできるらしいぜ?だからさっさとばっくれてきた。ロランの奴はトロイから連れていかれたみたいだけど?」
――!!
だからアイーシャがあんなに本気モードだったらしい。玉の輿を狙ってたのね。
ふにゃふにゃした雰囲気のロランさまは成り行きで皇驪さまとデートすることになってしまったようだ。
「にしてもあのオーサマもやるよな?あんたに群がる男どもを片付けるなんてよ。これだからオーゾクって奴はやっかいだぜ」
「そんな・・・まさかね」
ジェミルの気のせいだと思いたかった。
→間違いなく善意です
「ライザールさまはそんな方じゃないわ。善意よ」
しかしそう言った途端ジェミルの眉間に皺がより一気に不機嫌な顔になった。
「チッそう思ってるのたぶんあんただけだぜ?・・・あんな奴に骨抜きにされるなんてよ・・・クソッ」
そう捨て台詞を吐いたジェミルは姿を消した。
気を取り直してライザールさまの元に戻るとすでに皇驪さまの姿はなかった。
(・・・まさかね)
あの方たちは大人だし必要以上に気にかける必要はないのかもしれない。
だから居住まいを正した私は力を貸してくれた礼を言った。
「今日はありがとう、ライザール様。」
「どこにいたんだシリーン、探したんだぞ?」
どこか確かめるように問いかけるライザールさまにどうこたえようかしら。
→友人を探していた
「ごめんなさい。ちょっと会場で知り合いを見かけてつい話しこんじゃったの。」
嘘ではないがジェミルの正体を明かせぬ以上チクリと痛む良心から目をそむけた。
いつか父の許しを得て真実を告白できる日が待ち遠しかった。
「そうだったのか。そういえばお前はショーサロンにいたんだったな。その時の知り合いか?」
ショーサロンを密偵のアジトだと疑念を抱くライザールの言葉にはどこか探るような気配があったが、シリーンはこれ以上嘘をつきたくなかったので素直に頷き返した。
わかっていた。本来は慎重で用心深い方だということを。
ただ私がシリーンだったから、彼の大切な少女だったからほぼ無条件で受け入れてくれたにすぎないということを。
私を疑う度彼の苦悩が深まってしまうのだと。
「ならいい。久々に会えてよかったな。友人は大切にしろよ。」
あっさりと疑念を引っ込めた彼の言葉はとても温かくて私の胸を打つものだった。
水タバコ商人に扮した我が父とカルゥーだけが彼の友と呼べる存在だった。
この国はこんなに広いのに私達が心を許せる人はほんの僅かな人だけだった。
だからこそより一層私たちは絆を深めたのだから。
「ええ・・そうね。大切にします」
私を信じてくれたこの方を信じる。誰よりも、私自身よりも大切な方なのだから。
その後ロラン様とデートした皇驪さまがどうなったかというと、とても意味深な一夜を過ごしたらしい。