「え?皇驪さまが?」

 

それが私の開口一番発した声だった。

 

依頼は無事解決したはずだった。しかしやはりあれだけ夢想していた乙女を簡単に思いきることはさすがに無理だったのかもしれない。

 

長年大切に想いを寄せてきた白娘子(はくじょうし)という蛇が変じた架空の乙女は皇驪さまの理想の女性であったが、私と出会った彼は私と白娘子を重ねてしまったのだ。

 

私にも思惑があり、咄嗟に調子を合わせてしまったが彼もそれを承知で喜んでくれていたのだが。

 

先日のこと「金梅酒」と私のキスを賭けた遊戯をしたのも記憶に新しかった。

 

だが結局私はその場にちょうど居合わせたライザールさまを選んでしまい、お二方を袖にしてしまったのだ。

 

密偵としては情けない有様だったが、あの時の私には愛するあの方以外の男性を選ぶことなどできなかった。あの方の前で他の男たちと戯れることなどできるはずがなかった。

 

それだけなんというか、皇驪さまと希驪さまの醸し出す妖しく危うい雰囲気にのまれまいと必死だったのだが・・・

 

その結果あっさり身を引き、現実の乙女に目を向けると皇驪さまは希驪さまに誓って事なきを得たばかりだったというのに・・・

 

「・・・白娘子ロス・・・ですか?」

 

いわゆる、である。憧れていた相手が結婚や引退することで引き起こる心的喪失感情だろうか。私も女だからわからなくはなかった。

 

それだけあの方の純粋な想いを知りながら利用してしまったことが心苦しくて、なんだか申し訳なくてならなかった。

 

「そうなんだよっ・・・こう兄はやっぱりこう兄なんだって思って俺ちょっと安心しちゃったんだよなあ・・・でも俺が頼んだからこうなったわけだしさ。・・・凄腕の密偵のシリーンならなんとかしてくれるんじゃないかと思ったわけだよ」

 

仔犬のように泣きを入れる希驪さまを冷たくあしらうことはできなかった。

 

それは随分かってくれたものである。前回のようにたまたま上手くいったケースのようにいくとはかぎらない以上、密偵業は休業寸前の身であったのだが。

 

しゅんとうなだれた困り顔の希驪さまを前に「できない」とは言いだせなかった。

 

「・・・わかりました。少し考えさせてください」

 

辛うじてそう口にすることしかできなかった。

 

 

誰に相談しようかしら?

 

→ライザール様

 

「・・・というわけなの。なにか名案はないかしら?」

 

困った私が相談相手に選んだのはやっぱり名君と誉れ高いライザールさまだった。

 

当然のことながらライザールさまの反応は思わしくはないものだった。

 

日々国の現状を憂える王からすれば、皇驪さまの悩みなどささやかなものに違いない。

 

しかし、会議の場で物おじせずに端的に説得力のある発言をする皇驪さまの姿を目の当たりにしたためかライザールさまも有能さの片鱗を見せた皇驪さまに一目置いているようだった。

 

「なんと呑気な、と思わなくもないがお前にそんな顔をさせておくわけにもいかないからな。私を頼ってくれたのだろう?・・・ありがとう、シリーン。うむ、そうだなひとつ考えがあるのだが」

 

あくまでもお前の為だと断りをいれたあと、ライザールさまは考えを述べた。

 

「!!それは面白そうだわ。さっそく手配をお願いできますか?」

 

こうして国際交流の一環として「白娘子コンテスト」が開かれることになったのである。

 

突然の決定だったのにも関わらず、有能な宰相と有言実行の王の差配のもとコンテストの準備はあっという間に整ったのであった。

 

「きゃ~~~いや~~ん私絶対出る~~~!!待っててね~皇驪さま~~~!!」

 

黄色い歓声をあげるアイーシャの姿が会場にあったのはいうまでもない。

 

――がんばってアイーシャ

 

友を密かに応援しつつも私は私で根回しに回ることにした。

 

自分で言うのもなんだが皇驪さまはかなり面食いのようだ。なにせ理想の乙女である美しさは必須だった。

 

とはいえあの方は王位継承権第一位の皇太子さまなのだ。

娘たちに叶わぬ夢をみせることはやはり憚られた。

 

「だからお二人にお願いしたいのです」

 

美しさは必須だが美女である必要はなかった。

 

そんな私の審美眼で白羽の矢を立てたのがクライデル帝国のロランさまと我が弟ジェミルだった。

 

白銀の髪、白い柔肌、そして魔性の美貌・・全てを兼ね備えた方たちだと思う

 

ジェミルが時折私の服を無断で拝借して女装しているのは知っていたし、そもそも中性的なロランさまならより完璧だった。

 

鱗帝国には男性が女役を演じる豪華絢爛な舞台があるというし、皇驪さまにそちらの趣味があるかはわからないけれど

 

ライザール様発案のコンテストをなんとしても成功させたくて私も必死だった。

 

もちろん私も当日は参加する予定だ。

 

「はあ!!あんた何言って!!・・・ちっそんな目で見んなよ・・ま、まあどうしてもってんならやってやらねえこともねえけど」

 

最初こそ動揺したジェミルだったが、女装に対してはさほど抵抗はないらしく小首を傾げてじっと見つめたら10秒で堕ちた。

 

我が弟ながらちょろい・・・こほっ優しい姉想いの可愛い弟である。

 

一方のロランさまはというと、パメラさまを取り戻したことで信頼を得たこともありもじもじと恥ずかしそうに上目使いでこくりと頷いてくれた。

 

相変わらず小動物のようなあどけなさと魔性を持ち合わせた方だ。

 

「僕でお役に立つなら・・・いいですよ。喜んでお手伝いさせてください」

 

二人の了承を得られた以上善は急げとばかりに準備に取りかかったのだった。