ある日のこと、ライザールの姿を探していたシリーンは宰相のザマーンに呼び止められた。
二人の関係は秘密なため物陰から手招きするザマーン
真っ黒なオーラが漂う男ではあるが相変わらず美形だった。(タミラという愛妻がいるのよね。美形なのに口説けない男、それがザマーン)
そんなザマーンがそっと差し出したものをみやったシリーンは首をかしげた。
どうやらスパイスの入った小瓶のようだ。
シリーンはザマーンからスパイスセットを入手した!!
「これでどなたかに手料理など振る舞ってはいかがでしょう?厨房は人払いさせてございますので」
興味を引かれ小瓶のラベルを見たシリーンの顔が輝く。
胡椒、ナツメグ、唐辛子、シナモン、ヴァニラエッセンス、カレー粉
手の込んだ煮込み料理からスイーツまで作れそうだ。
「ありがと、ザマーン。さっそく作ってみるわね」
うきうきとした気分で礼を言ったシリーンはメニューを次々と浮かべながらさっそく厨房へと向かった。
こう見えても料理は得意だった。各国の料理のレシピも頭に入っている。
今日は時間もあるし久しぶりに手の込んだ料理に挑戦してみるのもいいかもしれない。
厨房には新鮮な食材が取り揃えられていた。さすがザマーンだ。根回しは完璧だった。
ピリッと胡椒の効いた饅頭、ジューシーな手こねハンバーグ、辛さが絶妙なチリビーンズ、シナモンの効いたクッキー、甘~いスフレ、みんな大好きチキンカレー
どれにしようか迷ってしまう
誰に作ろうかしら?
→ライザール様
そうね、日ごろの感謝を込めて日々政務でお疲れのあの方に作ってさしあげよう
スパイシーなレンズ豆とひよこ豆のスープを作ることにしましょう。
手を洗いさっそく調理に取りかかる。
手際よく食材を切りわけ、炒め鍋で煮込むとすぐに辺りには食欲をそそる匂いが立ち込めた。
すると匂いにつられたのかひょこりと給仕係姿のロラン様とジェミルが姿を現した。
「なんだかおいしそうな匂いがします。僕も料理得意なんですよ。貴女と一緒にひき肉をこねたり・・・蜂蜜をかけっこしたりしたい」
いささか妄想が激しいロランさまの言葉をスルーしたジェミルが口を開く。
「ってあんた・・料理してんのか?・・・チッ抜け駆けは無しだぜロラン」
まるでお預けを食らった子猫のように鍋を覗きこむ二人の姿にシリーンは思わず母親になったような気分だった。
「ちょうどよかったわ。今豆のスープを作ってるの。味見をお願いできる?」
ライザール様の好みに合わせてちょっと辛めだったが二人の反応はそれぞれだった。
「僕・・・辛いの苦手・・です・・けど、貴女からならお仕置きされてもいい・・です」
「チッ豆か・・・だがコイツの手料理食えるチャンスだし・・・ここは噛まずに飲み込むしかねえな」
不穏な独白に呆れつつも気を取り直したシリーンは小さな器にスープをよそい二人に手渡した。ものはためしである。
「か・・・辛い・・ああっ・・・これが貴女のくれる罰なんですね・・・僕・・・僕っ・・はあっ」
「テメッいかがわしいこと言ってんじゃねえよっ。あんたの手料理なら豆だってなあ・・・俺は食うぜっ」
グビッと一気飲みしたジェミルは涙目だった。(そういえばこの子は好き嫌い多い子なのよね。ロランさまには甘いお菓子、ジェミルにはチキンカレーの方がよかったみたいね)
![]()
![]()