※王の密偵妄想の別設定の妄想番外編です

蛇香のライラ ライザール 愛の鞭を持つ男

次世代指導者会議のセレモニーに舞姫として参加したシリーンだったが舞を披露した後、楽屋として使用された別室で着替えをしてパーティが行われている会場に紛れ込み別行動中のジェミルの姿を探していたのだが・・・

 

そんな彼女の姿を目で追う者たちがいた。

 

人払いさせた回廊から見下ろすライザールと水タバコ商に身をやつした真王ライザである。

 

「あれが噂に名高い舞妖妃か・・なかなかいい女だ」

 

楽しげな口調とは裏腹にライザールの視線が厳しいことに気づきながらライザも調子を合わせる

 

「ほう・・・ライザールさまはなかなかお目が高いようだ。だが綺麗な花にはくれぐれもご注意を・・」

 

「ああ・・・わかっている。もっと近くでじっくりと検分したいものだが・・さてどうするか」

 

 

しばしの逡巡の後、ライザールは待機中の部下に命じた。

 

「・・・ザマーンを呼べ」

 

すぐに颯爽とした足取りで有能な宰相が姿を現した。能面のような顔には愛想の欠片もなかったが眉目秀麗な男だった。

 

まだ若いがなかなかの切れ者で食えない人物であり水タバコ商人を真王と知る数少ない王の腹心の一人である。

 

王に目礼したザマーンはすぐにライザールに向き直った。

 

「あの者だがお前はどう思う?」

 

舞姫の姿を目にした途端、すぐにライザールの目論見を察したように慎重にザマーンは切り出した。

 

「さて。あれはカマルの者ですね。これまで幾度なく王の入店を断ったと聞き及んでおりますが・・・わざわざ各国の王族が集う場に姿を見せたのはやはりなにか企みがあるのかと」

 

我が意を得たりとばかりにライザールは頷き返した。

 

「そうだ。うさん臭い噂がつきないかの店がこの機会に乗じて密偵を送り込むのは容易いからな。色香で惑わし情報を引き出すつもりか、あるいは暗殺か・・どちらにせよめったにないチャンスであるのはこちらも同様だ、ぜひ利用したい」

 

相手は得体のしれない女である。なにかきっかけが欲しかった。

 

「王が命じれば断れないのでは?一晩だけの相手など事欠かないでしょう?」

 

どこか面白がるようにライザが口を挟んだ。

 

若気の至りを知るだけにどこか揶揄する口調に憮然とした面持ちでライザールは応えた。

 

「それはそうだが大臣たちの追及をかわすのが面倒だ」

 

最近はことに結婚をちらつかされて辟易していた。そうでなくてもライラ・ヌールとしての活動もあり身辺整理をする必要もない程夜の営みはご無沙汰だった。

 

「そうですね・・・ではこうしてはいかがでしょう」

 

会話には入らず逡巡していた様子のザマーンが口を開いた。なにか妙案があるらしい。

 

計画とはこうである。舞姫には直接ライザールが声をかけ交渉するところまではライザの意見と同様ではあったが、その後の身元保証人の話に及ぶとライザールも得心顔になった。

 

王を拒む後ろ暗さがあるカマルの警戒をかわすためと対面を保つためにも対立する大臣の中から妙齢の娘がいるターヘル・アリと内々の交渉をして密約を交わすことで合意に至った。大臣を味方につければ優位に立つこともできるという按配だった。