バッドエンド復活愛のライザールさまサイドのお話です
「本当にいいのかい?君も随分とお人よしだ」
深謀遠慮の水タバコ商人こと真王ライザールの投げかけた言葉にわずかな躊躇いをみせたルトだったが答えた声は苦悩が窺えるものだった。
「ああ・・自分でも愚かだというのはわかっている。だが俺にとって彼女はやはり大切な女性(ひと)なんだ」
国民のために身を粉にしてきた俺がただ一人の彼女を見放すことはやはりできなかった。
ああなってしまったのは彼女自身のせいだけではなかった。
この国の王族を狙う悪しきものたちが彼女をそそのかし、寄る辺もない彼女はそれに応えるしかなかったのだ。
あのような手段を用いてまで彼女が欲したものを得られたのかはわからないが、俺にとって誰よりも大切な女が男たちの欲望に振り回され身を持ち崩すことはやはり許せなかった。
だが俺もまた欲望に流されて彼女を傷つけた男の一人でしかない。
彼女を抱いた男に対するマウンティングを誇示したかったというのもどこかにあった。
冷静さを欠いた軽率な行動であったことは確かだったが、手遅れだとしても諦めるわけにはいかなかった。
「だが・・もし彼女が貴方に仇をなすなら彼女の始末は俺がつけると約束する」
国の象徴である王もそして彼女もどちらも俺にとっては大切でけっして損なうことはできない存在だった。
そうならないことを俺は祈ることしかできなかった。
全てはこれからの彼女次第だった。
「お前には指一本触れないと約束する」
その宣告通りあれ以降俺は彼女を抱かなかったが、だが放置もできぬしましてや軟禁する気もおきなかったので、監視も兼ね同じ部屋で生活を共にした。
シリーンは暗殺者でこそなかったが、寝首をかかれるリスクはあった。
案の定と言うか好戦的な彼女は俺を暗殺するか誘惑するか葛藤があったようだ。
俺が王族でない以上、王族の血を欲する彼女にとっては用済みだったのかもしれないが、それでも彼女は俺を無視できないようだった。
その執着がどこからくるのか彼女はわかっているのだろうか?
彼女がいかに足掻こうが権力の前では無力だったしどのみちこの宮殿から生還できるはずもなかったが、後がない彼女が自暴自棄になる可能性はあったのだ。
「ねえ・・・しないの?」
眠りを妨げる彼女の誘惑の口づけにも俺が応えることはなかった。
「明日も早いから寝ろ」
そっけない俺の態度に焦れた彼女がさらなる悪戯をしかける時もあったが根競べで負けるのはいつも彼女の方だった。
以前はヘナタトゥーをしていたシリーンだったが、本腰をいれ男を誘惑する術を学んだせいか再会した時はヘナタトゥーはしていなかった。
だからどれだけ挑発されようと、心がどれだけ欲しても彼女には触れなかった。
初めこそ警戒していたシリーンだったが、手負いの獣の扱いは俺はカルゥーで慣れていたし懐かしさすら感じた。
そもそも俺にとって特別な女だ。
他の男と同列に思われるのは心外だった。
彼女の抱く歪んだ男性観がどこからくるのかとふと思う。体験から得た物なのか、あるいは店主がそうしむけたのかもしれない。その方が恐らく都合がよかったのだろう。己の邪な欲望のために彼女の自我を奪い利用する男の考えなど想像がつくというものだ。
店主のせいで俺の愛する女がつまらぬ男たちに軽薄な女のように扱われたのかと思えばたまらく不快だった。
俺にとって彼女との行為は欲望処理などではない。純然たる愛の行為だったからだが、シリーンに伝わらぬのであれば意味がなかった。