「好きになさいませ」

 

私は彼らにそう告げた。

 

美の手引書に心酔して闇に堕ち、闇の組織と通じ、欲しいものを得るために代償を支払った二人の女たち。

 

パメラはロランさまに、美蘭は希驪さまに託した。

 

恋する無邪気さと手段を選ばない凶悪さを併せもった美しい彼女たちを生かすも殺すも彼ら次第だ

 

将来の悪の芽を摘むのか懐柔して支配するのか心を通わせるのか好きにすればいい

 

ああ見えて彼らもまた己の欲望に忠実である如才ない方達だ

 

パメラを模した人形へ狂気と紙一重の愛情をそそぐロランさまが、祖国を滅ぼしてまでヴィンス殿下(他の男)を追い求める彼女の裏切りに堪えられるかはわからない

 

美蘭の真実を知ってしまった希驪さま、未来の君主である兄想いのあの方が彼女の希驪さまへの執着と皇驪さまへの憎悪を知って尚耐えられるのかも

 

けれどそこまでは私の関知することではない

 

我が国の真王である父の憂いを取り除くこと

それが私に課せられた役割なのだから

私もまた手段を選ぶつもりはなかった

 

「そうか・・・・・残念だ。そんなことが彼らの望みだったとは。もはや生かしておく理由はないようだ」

 

私が長年使えてきた偽りの主「店主さま」とその共犯者「マイルズ」の真実を父に伝えた。

 

美と不老不死に執着した彼らの成したおぞましい数々の犯罪。

彼らを見逃すことはこの国の、ひいては世界のためにならない

 

彼らは負の遺産とともに消えるべきだ、一片も残らず

 

「頼めるかな・・・シリーン」

 

王命は下った。だから私も恭しく承る

 

是が非でもしくじれなかった私が共犯者に選んだのは

 

アサシンである私の弟・・・ジェミルだった

 

実のところジェミルは店主の意向に副う振りをしながらパメラを捕えた時も美蘭を捕えた時も密かに暗躍していた。

 

店主の命令でライザールさまの命を狙っていたジェミルと密会して彼の協力をとりつけたのだ。

 

ヘナタトゥーをしていなかった好機をうまく使うことができたのは幸いだった。

 

慧眼なライザールさまに感謝しなくては

 

私にだけは知られたくなかったのだと苦悩を浮かべた面持ちで彼は言った。

 

汚れてしまった自分を厭うジェミルの苦しみはわかるつもりだった。

 

なぜなら私もまた同じだからだ。

私もまたジェミルにだけは知られたくなかった。

 

私の手がとっくに汚れているということを・・・私を守るために店主の言いなりになっていたジェミルに告げるのは辛かった

 

敵を騙すにはまず味方からというが「沈黙」がどれだけの苦悩をもたらすのか当事者でなければわからないだろうから

 

けれどジェミルは私を許して、そして受け入れてくれた。

私たちは二人とも店主の犠牲者だったから

誰よりもわかりあえたのだろう