そしてついに私たちが共闘する日がきた。
わが国で起きた連続少女誘拐事件の首謀者、店主とそのスポンサーであった「マイルズ」を狩るために私とジェミルは闇を駆け抜けた
彼ら二人に「死」を与えるために
「・・・君は本当に・・・・怖い子だ」
それが店主の最期の言葉だった。
店主の「時」はジェミルが、マイルズの「時」は私が止めた
鮮やかに舞うように僅かな躊躇も葛藤もなく私たちは事を成した。
悪夢から解放はされたが孤児であったジェミルは家を失った。
帰る場所を見失い途方に暮れるジェミルを伴い、私は宮殿へと向かった。
一緒にこの国を出ようと懇願するジェミルの願いを聞き届けることはできなかった。
なぜなら貴方の家も家族もここにいるのだから・・
この国の王族として生を受けた以上この国のために生きるしか術はない。
旧ハレムの隠し通路で待っていた父にジェミルを引き合わせた私は今度こそ全てを偽らずに打ち明けた。
肉親との再会はジェミルを心底驚かせたようだった。
だが心配は杞憂に終わった。
天涯孤独だと信じていたジェミルにとっては感動も一入だったに違いない
私が実の姉であることは彼にとっては受け入れがたい難題だったようだけれど
ライザールさまとは違う肉欲を伴わない愛情ではあったが、いずれ時間が解決してくれるだろう
二人を残し私はそっと大浴場に足を向けた。
ライザールさまに見つかるわけにはいかなかったから
本来ならとっくに私室で就寝している時間だったが、さすがに一仕事終えた後は沐浴したかった。
薄暗い大浴場で湯を使い身を清めていた時、ふと背後に気配を感じた
振り向かずともそれが誰か私にはわかった。
――ライザールさま!!
まだ結婚前なので別々の寝室で休んでいたのだが、密かに宮殿を抜け出したことは彼にはお見通しだったらしい
どう取り繕えばいいのか逡巡していたら無言のライザールさまに背後から抱きしめられた。
「無事でよかった・・・・シリーン」
不安と安堵がないまぜになった声だった。
―――!!
その言葉で私は彼が真実を知ってしまったのだとわかった。
恐らく父に聞いたのだろう。
私が長年抱えてきた秘密はついに彼の知るところとなってしまったようだ。
ライザールさまの腕になだめるようにそっと触れると彼が離れる気配がした。
覚悟を決め振り向いた私は真正面からライザールさまと向き合った。
だが結局私たちが多くを語ることはなく場には静寂が満ちていた。
何から話せばいいのかわからなかったが互いに必要としていて私たちは求め合っていた。
濡れて素肌にはりつく薄いガウンをまとった私の姿を眩しそうに見つめたライザールさまは私の手を取り労わるように洗ってくれた。
私がしてきたことを知ってしまったのだと思えば心苦しかった。
けれどライザールさまはけっして私を咎めなかった。
彼もまた王の協力者だから。私の覚悟も、この国のために成すべきことを成しているのだとわかってもらえただろうか。
「ライザールさま・・・んっ」
名を呼んだ唇は彼の唇によって塞がれてしまった。
彼の与える官能に心も身体も高まってゆく
唇を許すことが私にとってどれだけの意味を持つのか彼にも実感できたようだ。
気づけば彼の胸にすがった私の両腕には蛇状の鱗模様が浮かび上がっていた。
「・・・これは」
初めてそれを目にしたライザールさまは驚かれたようだったが、その目にはいかなる嫌悪も浮かんでいなかったことに私は安堵した。
「そうか・・・これが証なのか」
感慨深げにそう口にしたライザールさまに私は壮絶な笑みを浮かべたままそっと囁いた。
「ええ・・・貴方に受け入れる覚悟があるかしら?」
それは「ルト」が「ライザール」を選んだ時から予め定められたことだった。
長年ライザールとなった彼を見守り、彼の王としての資質を見抜いていた父は王家の血筋を絶やさぬために私を娶らせるか、いずれジェミルに王位を継がせるかが悩みどころだったらしい。
だが一国の主になるにはジェミルはまだ若く勉強不足だったので実績もあり国民の信が篤いライザールさまの治世が当分続くだろう。
なによりも私自身が彼を欲しいと思っていたから
父は私の意も汲んでくれたのだ。
「ああ・・・私は全てを受け入れてお前を手に入れる。だから私と結婚して欲しいシリーン」
自負を湛えた王者の笑みだった。
そして私の長年の苦労が報われた瞬間だったのである。