蛇香のライラ ライザール×シリーン 王の密偵

 

バッドエンドからの復活愛

 

他の男に抱かれる姿を目撃して嫉妬のあまり衝動的に抱いてしまったライザールだったが、ヒラール宮でシリーンがしたことを思えば外聞が悪くかん口令を敷くほかなかった。

 

シリーンは「王の女」として認知されたものの王の報復が怖くて関係を持った男たちも沈黙を守った。

 

 

一方シリーンはと言うと店主の依頼を達成するためにもはやなりふりかまわずに手当たり次第目につく男たちとベッドを共にしたのでいずれこの日が来ることはわかっていた。

 

宮殿で我が物顔で振る舞うライザールだったが彼が王でないことはすでに承知していたので、真の王族を探すために彼の口を割らせることも想定内ではあった。

 

それが早いか遅いかだけでしかなかったのだ。

 

まったくこの男ときたら相変わらずのようだ。

 

シリーンの相手をしていた男を高圧的に追い払ったかと思えばいきなりその場で人目もはばからずに事に及んでくるとは。

 

浅ましいケダモノのような男だ。

 

「また私から奪うの?」

 

嘲笑を含ませた声で囁いた瞬間ライザールの顔色がサッと蒼白になった。

 

―――奪った?

 

皮肉なものである。これまでずっと後生大事にしてきた貞操だったがこの男にあっけなく奪われてしまった。それからはこの男以外の相手と見境なく関係を持った。

 

それがどれだけシリーンを傷つけたのかこの男にはわかるわけない。

 

動揺するそぶりを見せるライザールを余所にシリーンは考える。

 

さあ・・・どうやってこの男を出し抜いてやろうかしら

 

傷つけられるのは一度だけで十分だった。

 

不敵な笑みを浮かべ挑発するシリーンを前にライザールは彼女の身に起きたことを薄々ながら察していた。

 

奪った・・と彼女が言ったことがショックだった。

 

確かに初夜の晩彼女が初めてとは思わず奪うような形にはなったが、その後互いの気持ちを確認して想いを交わしたのは紛れもない事実だった。

 

大好きな初恋のルトに初めてを捧げることができてよかった、と彼女は言っていたのに

 

――記憶を改ざんされているのか?

 

おそらくそうなのだろう。店主の潔白を証明したいのだと言うシリーンを信じて一人でカマルに送り込んだのはライザールだった。

 

変な遠慮などせずにあと一歩踏み込めばよかった、と今では思う。

 

後悔しても後の祭りだった。シリーンは店主に捕まり暗示をかけられそして、

 

 

――彼女は俺のことを忘れてしまったのだ。

 

男を物色して淫らに振る舞い蓮っ葉なものいいをするシリーンの変節はライザールに衝撃を与えた。

 

挑発的で反抗的なシリーンの再教育を試みるライザールだったがすぐに持て余すことになる。

 

以前のような純粋な心を取り戻すことはもうないのだと悟り、なぜあの時一人で行かせてしまったのかと度々後悔の念に苛まれた。

 

ライザールに抱かれて喪失してしまった後再び店主の暗示にかかったシリーンだったが、喪失を知った店主を手始めに情報を得るために次々と男を食い物にするうちいつのまにか快楽を貪り彼らを顧みることもなく奔放に振る舞ってきた。

 

彼だけは違うとどこかで信じたかったが肉欲に流されたライザールもまた他の男と大差ないのだと心底軽蔑していた。

 

自分の女遍歴は棚に上げ女にだけ貞淑さを求めるなどバカバカしいとさえ思う。しかし根底には彼だけのものでいられなかった罪悪感があった。だからこそよけいに偽悪的な振る舞いになってしまった。

 

当初こそ変わってしまったシリーンに腹を立てていたライザールだったが、シリーンの豹変を前にしてもはや自分が彼女の「特別」でなくなったのだという事実に打ちのめされていた。

 

彼女を守れなかった自分を許せなかったし、シリーンの指摘通り過去の女たちのことなどいちいち覚えてない身勝手さを実感して羞恥さえ感じていた。そこで初めて心境の変化が訪れる。

 

元々身持ちの固い女だっただけに彼女の変化が痛々しくてならなかった。

 

自暴自棄になってまで店主のために王族の血を求める姿が哀れでならなかった。

 

もはや関係修復を望むのは難しかったがそれでも再会できた彼女をもう二度と失いたくなかった。

 

――俺は二度とこの手を離したくない!!

 

身体だけを求める男たちと同じだと嘲る彼女がこれまでどれだけ傷ついてきたのかと思えばもはや彼女を抱くこともできなかった。