「シリーン・・・一人か?」

 

そう問えばシリーンが寂しそうに目を伏せた。まずい聞き方をしてしまっただろうかと内心動揺しながら言葉を引っ込めることはできないまま一瞬の間が開いてしまった。

 

この間の件以来シリーンのこちらを見る目に遠慮が見て取れて気まずくてしかたなかった。気持ちは伝えたとはいえそれは失恋が判明するのとほぼ同時だった。

 

告白せずにいたままだった方が互いのためだったかもしれないが曖昧なままでいることが耐えられずに先走った結果玉砕してしまったのだから目も当てられなかった。

 

そのせいで生じてしまった微妙な距離感はあったもののそれでもシリーンは会えば微笑みかけてくれることが嬉しかった。たとえぎこちないものであったとしても。

 

すべて未熟な自分が招いてしまった結果だった。あの男が強引なのはわかっていて俺に揺さぶりをかけるためにシリーンに恥辱を与えるのを止めずにいたのは俺の過ちだった。

 

「見ないで」と訴える彼女から目が離せなかったから。

 

あの瞬間俺は彼女をそして彼女はアイツをアイツは彼女だけを見ていた。

 

思えば俺の入る余地ははなからなかったのだ。

 

なのに羞恥に震えるシリーンから目が離せなかった。俺の迷いを見透かしたようにアイツは最後の手段に出た。

 

その結果もたらされた狂乱の渦の中でも彼女は自分を見失うまいとアイツを選んだ。悔やんでも悔やみきれない苦々しさだけが残った。

 

だが今彼女は一人で居る。そのことが腹立たしくてならなかった。

 

俺ならけっして彼女を放っておかないのにと憤りながらも顔には出さず彼女を誘い散策を続ける。まったく嫌になるくらい贅を尽くしただだっ広い庭だった。

 

大勢の人間がひしめいているはずなのに誰も姿を見せない。もしかすると人払いがされているのかもしれなかったがそれでもそこかしこから忌々しい視線だけは感じて居心地が悪くてならなかった。

 

あの一件以来彼女は「王の女」として認識されたためうかつなことはできなかった。

 

「ライザールさまは忙しい方だから。しかたないのよ」

 

やがてそう寂しそうに彼女がぽつりと言った。肩を持つような言い方にムッとしながらその言葉に彼女の寂しさが集約されているように思えてならなかった。

 

あの男が忙しいのはわかっていた。誰よりも国のために熱意を傾けているのは傍で見ててもわかることだった。けれどそれでも必要とされているのに彼女の傍にいないのはどうにも許せなかった。

 

「シリーンはそれでいいのか?」

 

いいわけがないとわかっていたが責めるような口調に自然となってしまった。

 

「・・・立派な王で国民の一人として嬉しいもの」

 

お利口さんな答えに再びイラッとしてしまう。いつからこんな気持ちを偽るような話し方する女になったのだろうと訝しく思わずにいられなかった。

 

仕事の時は偽りの仮面を被ってこそいたが俺と話す時は姉としての振る舞いが鼻についたものの正直な女だったはずなのに。苦悩を覆い隠し心情を悟られまいと仮面を被るシリーンに俺は苛立ちながらかける言葉を見失ってしまった。

 

どんな言葉をかけても彼女を傷つけてしまう気がして無性に悔しくて、気づいたら彼女を抱きしめていた。

 

抱きしめた途端ビクッと活きのいい魚のように彼女の身体が跳ねた。

 

あの夜のことを思いだしたのかもしれなかったが構わず俺は彼女を強く抱きしめた。