唐瓜も茄子同様小鬼だった。揃いの茶系の着物姿の唐瓜は相変わらずの生真面目さを漂わせていた。
茄子にとって無二の親友であり、また面倒見の良い兄のような存在だった。
二本角の生えた小ざっぱりとした暗褐色の坊主頭は、常に寝癖に難儀する茄子の灰白色の柔らかなくせ毛と違いそんな悩みとは無縁に思えたが、本人曰く巻いてしまうため伸ばせないのがホントの所らしかった。
『あ、唐瓜・・・俺になんか用?』
気心知れた相手への気安さからついうっかりすっぽかしたかとも思ったが、よくよく考えれば確かに今日は会う約束はしていなかったはずだった。
しかし茄子の問いかけに唐瓜はやんわりと首を振った。
『別にそんなんじゃね~けど。社食で昼時見かけなかったからさ。ま~た食うのも忘れて作業に熱中してんじゃないかと思ってさあ』
図星だった。
『へへ・・さすが唐瓜は俺のことよく分かってるなあ。これ彫ってたら昼飯食べ損ねたんだよ』
いい仕事をしたとばかりにどこか満足げな様子の茄子に呆れながら指す方を何気なく見やった唐瓜はギョッとすることになった。


茄子の作りだす奇怪な芸術の数々を誰よりも身近な存在として見守ってきた唐瓜だったが、その唐瓜をもってさえそれは理解不能な作品だった。
『・・・あのさ一応聞くけどこれってなに?』
歪な笑みをこぼす白猫のレリーフに、つり眼を眇めた唐瓜の視線は釘づけだった。樹の造形を利用したと思しきそれは粗削りながら迫力があり精神をえぐるような溢れ出す不気味さはまさに地獄に相応しい意匠だった。
白澤
『あははは~やっぱり大事なのはラブ&ピースだよね~』
↑コイツ
このデザインを編み出したのが女の子が三度の飯より大好きな天国在住の神獣だというのが皮肉だった。地獄在住の一般獄卒である茄子と、漢方薬局を営む神獣白澤は芸術を介し意気投合し、気付けば共に芸術活動を行うまでとなっていた。
もっとも天才肌の茄子とは異なり白澤は全てのものを歪に描き出すことしかできなかったが、茄子はいたく気に入ったようで折を見ては絵や彫刻で猫好好(マオハオハオ)と名付けられたこの不気味猫を好んで己の創作のモティーフにするまでになっていたのである。
『これ?俺の力作、針口虫の猫好好シェアハウス~』
えっへんとばかりに得意げに腰に手をあて胸を逸らす茄子にどんよりとした面持ちのまま唐瓜は突っ込みをいれた。
『職場を勝手にリフォームすんな!!もし鬼灯様に知れたら・・はあ・・まーた地獄の名所が増えたと思えばいいのかあ?』
数々の作品を精力的に発表している牛歩斉茄子の名は今や八大地獄だけにはとどまらず、八寒地獄や天国をも席巻する勢いだったからである。
心配する唐瓜を余所に茄子は気にした風でもなく、コリをほぐすように伸びをすると鼻歌を歌いながら足元に置かれた鞄に工具を片付け始めた。どうやら撤収するつもりらしい。
今しがた来たばかりの唐瓜は複雑な心境だったが、つい興味をそそられるまま屈んだ茄子の肩越しに口を開けた鞄を覗き込んだ。
鞄の中には所狭しとばかりに様々な物が詰め込まれていた。
彫刻道具、黒縄の岩を詰めたと思しき不吉な瘴気を漂わせたガラス瓶、そしてあれは・・
『ってなんだお前昼飯持ってたんじゃないか』
唐瓜の目に留まったのは、金魚パイだった。
すると何故か茄子はほんのりと照れながらこちらに向き直った。
2015年8月8日公開
茄子にとって無二の親友であり、また面倒見の良い兄のような存在だった。
二本角の生えた小ざっぱりとした暗褐色の坊主頭は、常に寝癖に難儀する茄子の灰白色の柔らかなくせ毛と違いそんな悩みとは無縁に思えたが、本人曰く巻いてしまうため伸ばせないのがホントの所らしかった。
『あ、唐瓜・・・俺になんか用?』
気心知れた相手への気安さからついうっかりすっぽかしたかとも思ったが、よくよく考えれば確かに今日は会う約束はしていなかったはずだった。
しかし茄子の問いかけに唐瓜はやんわりと首を振った。
『別にそんなんじゃね~けど。社食で昼時見かけなかったからさ。ま~た食うのも忘れて作業に熱中してんじゃないかと思ってさあ』
図星だった。
『へへ・・さすが唐瓜は俺のことよく分かってるなあ。これ彫ってたら昼飯食べ損ねたんだよ』
いい仕事をしたとばかりにどこか満足げな様子の茄子に呆れながら指す方を何気なく見やった唐瓜はギョッとすることになった。


茄子の作りだす奇怪な芸術の数々を誰よりも身近な存在として見守ってきた唐瓜だったが、その唐瓜をもってさえそれは理解不能な作品だった。
『・・・あのさ一応聞くけどこれってなに?』
歪な笑みをこぼす白猫のレリーフに、つり眼を眇めた唐瓜の視線は釘づけだった。樹の造形を利用したと思しきそれは粗削りながら迫力があり精神をえぐるような溢れ出す不気味さはまさに地獄に相応しい意匠だった。
白澤
『あははは~やっぱり大事なのはラブ&ピースだよね~』
↑コイツ
このデザインを編み出したのが女の子が三度の飯より大好きな天国在住の神獣だというのが皮肉だった。地獄在住の一般獄卒である茄子と、漢方薬局を営む神獣白澤は芸術を介し意気投合し、気付けば共に芸術活動を行うまでとなっていた。
もっとも天才肌の茄子とは異なり白澤は全てのものを歪に描き出すことしかできなかったが、茄子はいたく気に入ったようで折を見ては絵や彫刻で猫好好(マオハオハオ)と名付けられたこの不気味猫を好んで己の創作のモティーフにするまでになっていたのである。
『これ?俺の力作、針口虫の猫好好シェアハウス~』
えっへんとばかりに得意げに腰に手をあて胸を逸らす茄子にどんよりとした面持ちのまま唐瓜は突っ込みをいれた。
『職場を勝手にリフォームすんな!!もし鬼灯様に知れたら・・はあ・・まーた地獄の名所が増えたと思えばいいのかあ?』
数々の作品を精力的に発表している牛歩斉茄子の名は今や八大地獄だけにはとどまらず、八寒地獄や天国をも席巻する勢いだったからである。
心配する唐瓜を余所に茄子は気にした風でもなく、コリをほぐすように伸びをすると鼻歌を歌いながら足元に置かれた鞄に工具を片付け始めた。どうやら撤収するつもりらしい。
今しがた来たばかりの唐瓜は複雑な心境だったが、つい興味をそそられるまま屈んだ茄子の肩越しに口を開けた鞄を覗き込んだ。
鞄の中には所狭しとばかりに様々な物が詰め込まれていた。
彫刻道具、黒縄の岩を詰めたと思しき不吉な瘴気を漂わせたガラス瓶、そしてあれは・・
『ってなんだお前昼飯持ってたんじゃないか』
唐瓜の目に留まったのは、金魚パイだった。
すると何故か茄子はほんのりと照れながらこちらに向き直った。
2015年8月8日公開


