二人の間に生じた微妙な温度差に居心地の悪さを感じながら、目先の利益に浮かれてまんまと掌の上で転がされる親友の姿を唐瓜は思い出した。

『あったな~そんなこと。でもさ、それ懸衣翁には見つかんない方がいいぞ?あのヒトピーチ・マキのファンらしいし。って賞味期限ぎりぎりじゃんか!?食べ物粗末にしないうちに食べろよ』

昼食を抜いた幼馴染への心配を照れ隠ししながら言う唐瓜の優しさに茄子は感激した。

『おうっ!!』

勢い込んだのもつかの間茄子は申し訳なさそうに言った。

『でもなあこれ夜食にとっとこうと思って。そういえば唐瓜はもう昼食べたの?』

実は茄子には先ほどああ言ったが、思った以上に仕事が押してしまったため、食堂で残った飯で賄ってもらったお握りで簡単に済ませてしまったのだった。

けれど当然足りるはずもなく小腹は空いていたのだが。

『まあ食べたことは食べたんだけど・・・』

その言葉を証明するように唐瓜の腹が鳴った。

この時間だと食堂は夜の仕込みに入っている頃合いだった。

すっかり飯を食べ損ねた茄子と共に空腹を抱えたまま途方に暮れていると、ぽかんと口を開き鈍色の空を見上げていた茄子の顔に喜色が浮かぶのが見えた。

ひらめき電球唐瓜!!これだよ!!』

『へ?なにが?』

時々茄子の思考の飛躍にはついて行けない時があった。
茄子の注意をひいたものが何かと探すように空へと視線を彷徨わせていると、茄子は突然樹に飛びついたかと思うと先ほど完成したばかりのシェアハウスを足場にしてするすると猿のような素早さで樹を上った。

『お前なにやってんだよッ』

突飛な行動には慣れていたし説明されれば納得いくこともままあったのだがこの時ばかりは見当もつかず泡くった顔の唐瓜だったが、やがて茄子は袂から出したと思しき風呂敷包みを手に戻ってきた。

何事かと見守る唐瓜の前で解いた包みから姿を現したのは・・


『お前・・それってまさか?』

茫然とする唐瓜を前に茄子は自慢げに言い放った。

『脳吸い鳥のたまご~~』

嫌な予感が怒涛のごとく押し寄せるのを感じながら唐瓜は茄子をねめつけた。なぜなら文字通り亡者の脳を吸う鳥の卵は煮ても焼いても美味く中でも煮卵は地獄珍味に選ばれるほど絶品だったが、己で入手するには危険が伴う物だったからだ。

『ちょっと待て!!確かに俺も好きだしっ!!美味いけど!!』

茄子を押しとどめながらさっと伺うように大樹を見やった唐瓜の視線のさきには亡者の骨でできた空っぽの巣があった。親鳥の影を見た気がしてヒヤッと背筋に緊張が走ったが幸い目の錯覚だったようで唐瓜を心底安堵させた。

しかし戦々恐々とする唐瓜に対し茄子は楽天的だった。

『だってさ、ここに新鮮な卵があって近くには血の池だってあるんだよォ?いいじゃん別に。唐瓜は心配性だなあ』

うんち返りにならなきゃいいけど・・』

恐ろしいのは親鳥の逆襲だけではなかった。唐瓜の脳裏に中堅獄卒の間で勇者扱いされるという通称『うんち返り』と呼ばれる恐怖の降格人事が過った。フンコロガシ獄卒が活躍するというフンコロガシ屎泥課に配属されるということはフンコロガシにとっては栄転だが一般獄卒にとっては左遷にほかならなかったのである。

将来はぜひお香が官職を務める衆合地獄勤務希望の唐瓜としては薔薇色の日々が一瞬で鈍色に替わる事態は避けたかったが結局鳴り止まぬ腹の虫を宥める方法は一つしかなかった。

そしてウキウキと楽しそうに沸き立つ血の池で調理する茄子の大胆さが怖くも羨ましくもあったのだが、ホカホカと湯気を立てるゆで卵を目にした途端唐瓜の躊躇は消え去っていたのであった。



鬼灯の冷徹 茄子の突撃クッキング ♨卵を作ろう



キラキラできた~採れたて新鮮な脳吸い鳥のゆで卵~~』

『はは・・・できちゃったよ。けどやっぱ美味そうだなあ』

若干の後ろめたさはあったとしても、すきっ腹にはたまらない濃厚な黄身の味にはあらがえそうもなかった。

『さっそく食おうぜ茄子』

気付けば急かすようにそう口をついて出ていた。

2015年8月14日公開