2019年9月7日記事を差し替えました

「なんだよ、水落センセ、生活態度を改めろって話なら耳たこだぜ。」
俺クリスはセナの部屋に来ていた。緊張を悟られるのはばつがわるくていつも以上にぶっきら棒になってしまう。少しだけ自己嫌悪を感じた。居心地が悪い、好きな相手に告白もできずやり場のない苛立ちをずっと抱えている。
セナは失恋が原因だと思ってるみたいだ。けどそれはセナの見当違いだ。
俺は水落セナに延々片思い中だからだ。告白すらできないで失恋確定だとしても認めることはできない。たとえセナに想いを受け止めてもらえないのだとしてもこの苦しい気持ちを打ち明けられないのだとしても諦められないから。切なくて苦しい恋心は消せないからだ。
俺を見つめるセナの顔が教師のそれなことに少しだけ落胆と安堵を感じながら見透かされるのが怖くて、臆病な俺は目を逸らしただやり過ごすことしかできない有様だった。
セナが俺の言い分に納得していないのは明らかだった。だが何も聞きたくない俺はセナのひらきかけた口をけん制したくて言葉をついだ。
「わ~ってるよ。シオンにも散々しぼられたし、マジ勘弁な」
「シオン」の名を出した途端セナの眼光が鋭さを増した。
俺がシオンのことを話題に出すのをセナは嫌みたいだ。嫉妬してくれてるわけじゃないと思う。ただ俺に甘いシオンに呆れてるのだろう。
シオンは俺の腹心であり俺にとっては家族同然の大切な存在であったが、彼は同時に王子である俺の部下でもあった。だから教師の立場で諌めながらもどこか遠慮があるようだった。それにシオンは俺と先輩のことは知らない。だからなんのわだかまりもない相手としてこの学園の中で唯一心を許せる相手でもあった。
セナには知られてしまった。己で蒔いた種とはいえ少しだけ心苦しい。どれだけ好きでも越えられない壁があるからだ。先輩と俺のことは一時学園でも噂になったから否が応でもセナの耳に入ってしまったのはしかたないのかもしれない。
なぜなら先輩がセナに似ていたから、だから俺は先輩を好きになったのだから。
今ならはっきりとわかる。当時は自覚すらなかったのだから情けない。
俺はたぶんずっと前から水落セナに恋していた。
けれど彼の瞳に映るのは俺じゃない奴だった。
俺の従兄弟の双子を好きなのだと分かった時はショックだった。
そして気づいたらセナと疎遠になっていた。
だけど俺の中からセナが消えることはなくてその面影を追っていた俺は愚かにも先輩と恋に落ちてしまった。
そんな恋、長く続くはずもなかったが別れを切り出されるまで俺は夢心地だったのだから若さゆえの過ちとはいえ我ながら最低だった。
とはいえそれはもはや過去のことだと俺は吹っ切っていた。
でもクラス担任としてセナと接する機会が増え俺はまた悶々とすることになってしまった。
クラスの問題児と化した俺をセナは教師の顔で指導した。
でも俺が欲しいのはそんなものじゃない。セナの身体、セナの指先、セナの唇セナの欲望で俺をめちゃくちゃにしてほしい。
それが俺の渇望だった。やり過ごさなくてはならなかったのに、お預けを食らわされることに疲れた俺は魔がさしてしまった。
「俺が先輩に振られた理由知りたくない?」
唐突な話題転換だった。案の定セナは一瞬絶句したようだが、ため息を一つもらし俺の気まぐれに付きあうことにしたらしかった。ま、当時比較された相手だけに野次馬根性もあったのかもしれない。無言で促すセナの双眸にヒヤリとする光が過り俺の気持ちをさらに重くするものだったが、構わず続けた。
「俺がシオンに惚れてるから・・・・ってさ」
シオンの部下でもあるセナはシオンの人となりを知り尽くしている。だから大爆笑になる可能性すらあった。賭けに出ながらセナの反応を注意深く見守っていた俺は「何を今更」とでもいうようなため息を漏らすセナの姿に落胆しながらさらに続けた。
「失礼だろ?俺があんなおっさんに惚れるわけねえっての。たんに俺が歳食ったから先輩の好みじゃなくなったからだと俺は思ってるけど。ほら、俺って昔は天使みたいに可愛かったじゃん?・・・ん」
天使ネタに自嘲する俺の顎を突然セナが掴んだかと思うと目を合わせたまま言った。
「私にとって貴方はずっと天使のままですよ。誰も貴方を穢すことなどできない」
!
進歩のない奴と言われてる気もしないでもなかったが、吐息がかかる距離で告げるセナの熱さを秘めた真剣な眼差しについ頬が火照ってしまった。
軽口を言い返すタイミングを失してしまい、黙り込む俺の様をセナがどう思ったかはわからない。
気まずさに耐えきれず俺は逃げることした。
「んじゃまあ話がそれだけなら以後気を付けるってことで・・・」
我ながら情けないが今はとてもセナと顔を突き合わせていることはできそうになかった。
それなのに、一刻も早く立ち去りたくてたまらない俺の腕を掴んで引き留めたのはセナだった。
気づいたら俺はセナにギュッと抱きしめられていた。
「そんなつまらない男に貴方を奪われたのだと思うと自分が許せません。」
!?
クールなセナのらしくない熱を帯びる口調に俺は震えた。まさか・・嫉妬でもしているなんてきっと俺の願望に違いない。
だってセナが好きなのはアイツで・・
「セナ・・・んん」
名を呼んだとたん温かな唇で唇を塞がれ息ができなくてそれがキスなのだ信じられなくて俺は苦しさに喘いだ。
「私ならたとえ貴方が誰を好きでも諦めたりはしません。選んでくれたのなら離さない・・・決して」
!!
まるで情熱的な愛の告白にも思えて・・舞い上がりそうな心を押しとどめたのは手痛い失恋でできた傷だった。
愛情がなくても身体目当ての男たちは口先だけの愛を誓う、そんなものだ。
それでも欲しかったセナに初めて触れてもらえた感動が俺を包み込み頑なな心からあふれ出した想いはセナを拒絶できなかった。
キスをしながら、器用なセナの手が俺のシャツをはだけさせてゆく。大きな掌が触れるたび素肌筋に震えが走った。
俺の身体をまさぐるセナはもはや教師ではなく獲物を前にした狩人さながらだった。
遠慮も躊躇ないセナの手つきに翻弄されながら俺は、この温もりを味わった俺の知らないセナを知る者たちに嫉妬を覚えた。
俺が先輩と付き合った時もセナは何も言わなかった。俺に興味ないことに傷つく想いから俺も目を背けた。
「抱けよ・・・俺はセナに抱かれたい」
「・・・・・・!」
後輩たちと数々の浮名を流した俺の言葉はセナを驚かせたようだった。
無理もなかった。俺を抱いたことがあるのは先輩だけだったから。
互いを想いあっていても肉体の相性はやはり無視できないものだ。
俺だって男だから抱かれるよりかは抱く方が好きだったが、それでもセナを前にするとごく自然にそう思えた。
櫂や翔を抱くセナの姿を夜毎の悪夢で見ては懊悩し孤独が身に染みてたまらなかった。
セナの気持ちはセナにしか知りようはなかったが、おそらく今後もセナがあの二人と一線を越えることはないだろう。
だからあの悪夢は俺の嫉妬が生んだ幻でしかなかったが、そんな悪夢を見てしまえるほど俺はセナに夢中だった。
振り向いてほしくて必死だったのだ。俺が「抱かれたい」と言ったらセナは意外そうな顔をしたが、もとより躊躇などあるはずがなかった。
久々の受け身だったがそれでも俺の心に躊躇いはなかった。
密かに覚悟を決めたクリスを前にセナはいまだ懊悩していた。
過去に経験があるとはいえ正直抱かれること自体に抵抗がないわけではなかった。だがクリスが望むなら彼を受け入れてもよいと思ったのだが、意外なことにクリスは自分に抱かれたいというのだ。
それはセナの暗い渇望を揺さぶる願いだった。これまで幾度なく望んだことではあったが、それでも大切な人を傷つけてまで己の欲求を満たす気は到底起きなかった。
いいのだろうか?シオンが大切に育みいずれ王になるであろう方を己の欲望などで穢してしまっても。
だが同時にクリスが身体を許したであろう彼への対抗心がむくむくとセナの中で沸き起こった。
彼に抱かれ喜びに打ち震えるクリスの姿を消し去りたかった。
クリスを傷つけぬように新たな喜びを刻み付けたくてたまらなかった。
「・・・わかりました」



そして俺は意識を手放した。
目を覚ますと肌は清められベッドに横たわっていた。
教師の部屋にはユニットバスがあるのが幸いしたらしい。
セナはすでに服を着込みイスに腰掛けながら読書をしていた。
さっきまでの乱れをおくびにも出さないクールさが悔しかったが、落ち着いた面持ちで文字を追う顔に密かに見惚れていた。
教師の仮面をかなぐり捨てたセナの熱に翻弄された俺は成すすべもなかった。
その熱さは俺を手放さないと言ったセナの言葉が偽りではないと錯覚させるものだった。
それが無理なことは互いにわかっていたしそんなことあるわけないのに。俺は柄にもなく照れるほど嬉しかったんだ。
「気づかれましたか。すみません無理をさせてしまいました。・・・大丈夫ですか?」
丁寧口調でそういうセナはもういつも通りのセナで俺は安堵と落胆を覚えた。先ほどまで互いを貪っていた熱はとっくに消えていたが、腰にもたらされた感覚が現実であったことを物語っていた。
今夜、俺はついにセナに抱かれた。最初こそ躊躇っていた風だったが快感を追ううちに雄の性が勝ってしまったようだった。
ただの主従でしかなく欲望の対象にすらなることはないだろうと諦めていたのに、今更ながら一線を越えてしまったことに羞恥を感じた。
「・・・・平気。こんな時はよかったって言って欲しいぜ」
先輩は終わったあと必ず「よかったよ」と褒めてくれていた。だが本当に彼が満足していたかは今となっては知りようがなかった。
恋に恋して舞い上がっていた俺だったが、当時は初心すぎて先輩を満足させようとかまったく念頭になかったのだ。
だがセナのことはもっと知りたいし、彼に喜んでほしいとも思う。
セナの言葉に嘘がないか注意深く観察しながら答えをまっていたら、ふっと笑った気配の後真剣な面持ちでセナが言った。
「とても素敵でした。かなうならば貴方とまたこうしたい」
!
次があるのだと思えば嬉しくてたまらなくなった。
駆け引きなんてする気はなかったので俺も素直に答えた。
「いいぜ。俺もセナに抱かれたい」
こうして俺たちの利害は一致して秘密の関係は成立したんだ。

「なんだよ、水落センセ、生活態度を改めろって話なら耳たこだぜ。」
俺クリスはセナの部屋に来ていた。緊張を悟られるのはばつがわるくていつも以上にぶっきら棒になってしまう。少しだけ自己嫌悪を感じた。居心地が悪い、好きな相手に告白もできずやり場のない苛立ちをずっと抱えている。
セナは失恋が原因だと思ってるみたいだ。けどそれはセナの見当違いだ。
俺は水落セナに延々片思い中だからだ。告白すらできないで失恋確定だとしても認めることはできない。たとえセナに想いを受け止めてもらえないのだとしてもこの苦しい気持ちを打ち明けられないのだとしても諦められないから。切なくて苦しい恋心は消せないからだ。
俺を見つめるセナの顔が教師のそれなことに少しだけ落胆と安堵を感じながら見透かされるのが怖くて、臆病な俺は目を逸らしただやり過ごすことしかできない有様だった。
セナが俺の言い分に納得していないのは明らかだった。だが何も聞きたくない俺はセナのひらきかけた口をけん制したくて言葉をついだ。
「わ~ってるよ。シオンにも散々しぼられたし、マジ勘弁な」
「シオン」の名を出した途端セナの眼光が鋭さを増した。
俺がシオンのことを話題に出すのをセナは嫌みたいだ。嫉妬してくれてるわけじゃないと思う。ただ俺に甘いシオンに呆れてるのだろう。
シオンは俺の腹心であり俺にとっては家族同然の大切な存在であったが、彼は同時に王子である俺の部下でもあった。だから教師の立場で諌めながらもどこか遠慮があるようだった。それにシオンは俺と先輩のことは知らない。だからなんのわだかまりもない相手としてこの学園の中で唯一心を許せる相手でもあった。
セナには知られてしまった。己で蒔いた種とはいえ少しだけ心苦しい。どれだけ好きでも越えられない壁があるからだ。先輩と俺のことは一時学園でも噂になったから否が応でもセナの耳に入ってしまったのはしかたないのかもしれない。
なぜなら先輩がセナに似ていたから、だから俺は先輩を好きになったのだから。
今ならはっきりとわかる。当時は自覚すらなかったのだから情けない。
俺はたぶんずっと前から水落セナに恋していた。
けれど彼の瞳に映るのは俺じゃない奴だった。
俺の従兄弟の双子を好きなのだと分かった時はショックだった。
そして気づいたらセナと疎遠になっていた。
だけど俺の中からセナが消えることはなくてその面影を追っていた俺は愚かにも先輩と恋に落ちてしまった。
そんな恋、長く続くはずもなかったが別れを切り出されるまで俺は夢心地だったのだから若さゆえの過ちとはいえ我ながら最低だった。
とはいえそれはもはや過去のことだと俺は吹っ切っていた。
でもクラス担任としてセナと接する機会が増え俺はまた悶々とすることになってしまった。
クラスの問題児と化した俺をセナは教師の顔で指導した。
でも俺が欲しいのはそんなものじゃない。セナの身体、セナの指先、セナの唇セナの欲望で俺をめちゃくちゃにしてほしい。
それが俺の渇望だった。やり過ごさなくてはならなかったのに、お預けを食らわされることに疲れた俺は魔がさしてしまった。
「俺が先輩に振られた理由知りたくない?」
唐突な話題転換だった。案の定セナは一瞬絶句したようだが、ため息を一つもらし俺の気まぐれに付きあうことにしたらしかった。ま、当時比較された相手だけに野次馬根性もあったのかもしれない。無言で促すセナの双眸にヒヤリとする光が過り俺の気持ちをさらに重くするものだったが、構わず続けた。
「俺がシオンに惚れてるから・・・・ってさ」
シオンの部下でもあるセナはシオンの人となりを知り尽くしている。だから大爆笑になる可能性すらあった。賭けに出ながらセナの反応を注意深く見守っていた俺は「何を今更」とでもいうようなため息を漏らすセナの姿に落胆しながらさらに続けた。
「失礼だろ?俺があんなおっさんに惚れるわけねえっての。たんに俺が歳食ったから先輩の好みじゃなくなったからだと俺は思ってるけど。ほら、俺って昔は天使みたいに可愛かったじゃん?・・・ん」
天使ネタに自嘲する俺の顎を突然セナが掴んだかと思うと目を合わせたまま言った。
「私にとって貴方はずっと天使のままですよ。誰も貴方を穢すことなどできない」
!
進歩のない奴と言われてる気もしないでもなかったが、吐息がかかる距離で告げるセナの熱さを秘めた真剣な眼差しについ頬が火照ってしまった。
軽口を言い返すタイミングを失してしまい、黙り込む俺の様をセナがどう思ったかはわからない。
気まずさに耐えきれず俺は逃げることした。
「んじゃまあ話がそれだけなら以後気を付けるってことで・・・」
我ながら情けないが今はとてもセナと顔を突き合わせていることはできそうになかった。
それなのに、一刻も早く立ち去りたくてたまらない俺の腕を掴んで引き留めたのはセナだった。
気づいたら俺はセナにギュッと抱きしめられていた。
「そんなつまらない男に貴方を奪われたのだと思うと自分が許せません。」
!?
クールなセナのらしくない熱を帯びる口調に俺は震えた。まさか・・嫉妬でもしているなんてきっと俺の願望に違いない。
だってセナが好きなのはアイツで・・
「セナ・・・んん」
名を呼んだとたん温かな唇で唇を塞がれ息ができなくてそれがキスなのだ信じられなくて俺は苦しさに喘いだ。
「私ならたとえ貴方が誰を好きでも諦めたりはしません。選んでくれたのなら離さない・・・決して」
!!
まるで情熱的な愛の告白にも思えて・・舞い上がりそうな心を押しとどめたのは手痛い失恋でできた傷だった。
愛情がなくても身体目当ての男たちは口先だけの愛を誓う、そんなものだ。
それでも欲しかったセナに初めて触れてもらえた感動が俺を包み込み頑なな心からあふれ出した想いはセナを拒絶できなかった。
キスをしながら、器用なセナの手が俺のシャツをはだけさせてゆく。大きな掌が触れるたび素肌筋に震えが走った。
俺の身体をまさぐるセナはもはや教師ではなく獲物を前にした狩人さながらだった。
遠慮も躊躇ないセナの手つきに翻弄されながら俺は、この温もりを味わった俺の知らないセナを知る者たちに嫉妬を覚えた。
俺が先輩と付き合った時もセナは何も言わなかった。俺に興味ないことに傷つく想いから俺も目を背けた。
「抱けよ・・・俺はセナに抱かれたい」
「・・・・・・!」
後輩たちと数々の浮名を流した俺の言葉はセナを驚かせたようだった。
無理もなかった。俺を抱いたことがあるのは先輩だけだったから。
互いを想いあっていても肉体の相性はやはり無視できないものだ。
俺だって男だから抱かれるよりかは抱く方が好きだったが、それでもセナを前にするとごく自然にそう思えた。
櫂や翔を抱くセナの姿を夜毎の悪夢で見ては懊悩し孤独が身に染みてたまらなかった。
セナの気持ちはセナにしか知りようはなかったが、おそらく今後もセナがあの二人と一線を越えることはないだろう。
だからあの悪夢は俺の嫉妬が生んだ幻でしかなかったが、そんな悪夢を見てしまえるほど俺はセナに夢中だった。
振り向いてほしくて必死だったのだ。俺が「抱かれたい」と言ったらセナは意外そうな顔をしたが、もとより躊躇などあるはずがなかった。
久々の受け身だったがそれでも俺の心に躊躇いはなかった。
密かに覚悟を決めたクリスを前にセナはいまだ懊悩していた。
過去に経験があるとはいえ正直抱かれること自体に抵抗がないわけではなかった。だがクリスが望むなら彼を受け入れてもよいと思ったのだが、意外なことにクリスは自分に抱かれたいというのだ。
それはセナの暗い渇望を揺さぶる願いだった。これまで幾度なく望んだことではあったが、それでも大切な人を傷つけてまで己の欲求を満たす気は到底起きなかった。
いいのだろうか?シオンが大切に育みいずれ王になるであろう方を己の欲望などで穢してしまっても。
だが同時にクリスが身体を許したであろう彼への対抗心がむくむくとセナの中で沸き起こった。
彼に抱かれ喜びに打ち震えるクリスの姿を消し去りたかった。
クリスを傷つけぬように新たな喜びを刻み付けたくてたまらなかった。
「・・・わかりました」
そして俺は意識を手放した。
目を覚ますと肌は清められベッドに横たわっていた。
教師の部屋にはユニットバスがあるのが幸いしたらしい。
セナはすでに服を着込みイスに腰掛けながら読書をしていた。
さっきまでの乱れをおくびにも出さないクールさが悔しかったが、落ち着いた面持ちで文字を追う顔に密かに見惚れていた。
教師の仮面をかなぐり捨てたセナの熱に翻弄された俺は成すすべもなかった。
その熱さは俺を手放さないと言ったセナの言葉が偽りではないと錯覚させるものだった。
それが無理なことは互いにわかっていたしそんなことあるわけないのに。俺は柄にもなく照れるほど嬉しかったんだ。
「気づかれましたか。すみません無理をさせてしまいました。・・・大丈夫ですか?」
丁寧口調でそういうセナはもういつも通りのセナで俺は安堵と落胆を覚えた。先ほどまで互いを貪っていた熱はとっくに消えていたが、腰にもたらされた感覚が現実であったことを物語っていた。
今夜、俺はついにセナに抱かれた。最初こそ躊躇っていた風だったが快感を追ううちに雄の性が勝ってしまったようだった。
ただの主従でしかなく欲望の対象にすらなることはないだろうと諦めていたのに、今更ながら一線を越えてしまったことに羞恥を感じた。
「・・・・平気。こんな時はよかったって言って欲しいぜ」
先輩は終わったあと必ず「よかったよ」と褒めてくれていた。だが本当に彼が満足していたかは今となっては知りようがなかった。
恋に恋して舞い上がっていた俺だったが、当時は初心すぎて先輩を満足させようとかまったく念頭になかったのだ。
だがセナのことはもっと知りたいし、彼に喜んでほしいとも思う。
セナの言葉に嘘がないか注意深く観察しながら答えをまっていたら、ふっと笑った気配の後真剣な面持ちでセナが言った。
「とても素敵でした。かなうならば貴方とまたこうしたい」
!
次があるのだと思えば嬉しくてたまらなくなった。
駆け引きなんてする気はなかったので俺も素直に答えた。
「いいぜ。俺もセナに抱かれたい」
こうして俺たちの利害は一致して秘密の関係は成立したんだ。