賑わう祭囃子の音を聞きながら屋台をきりもりしていたお香は、可愛がっている蛇獄卒の異変に気づいた。
『あら~?変ねえ・・・拾い食いでもしたのかしら~』
しかも二匹ともぐったりとして口をきくのも億劫そうな様子に首を傾げるお香が目にしたモノは・・・
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どこからともなく忍び寄り、愛蛇の生き血を吸い巨大化した一匹のノミ妖怪だった!
『離せッ離さんかっ・・あへ~あ・・・そこはダメ~ん』
『あら~見慣れない妖怪ねえ・・・血河漂処(けっかひょうしょ)※?それとも受苦無有数量処(じゅくむうすうりょうしょ)※?』
※なんか虫がたくさんいる地獄らしいです
ジタバタとあがくでっぷり太った冥加をつまみ上げる不思議顔のお香の麗しさに鼻の下を伸ばした冥加は
問われるまま全てぶちまけたのだった。
事の発端は巡り巡って犬夜叉世界から地獄へと迷い込んでしまった七宝から始まる。
かごめ達とはぐれてしまった心細さを紛らわすうち、好奇心には勝てず興味津々で冷かしていた屋台でここへきた時に失ってしまった亡き父の毛皮で作られた襟巻を発見した七宝は大切な形見を取り戻すため奮闘することになったのである。
とはいえ知り合いのない地獄で頼りになるのは大切な仲間の雲母(きらら)と冥加(みょうが)、そして己のみだった。
(おらは・・おらは必ずお父の形見を取り戻して元の世界へ戻るんじゃっ)
そう心に誓ったのもつかの間だった。
祭りで賑わう仲見世を通りがかった時のことである。
変化を解き子猫の姿で前を歩いていた雲母が突然走り出したのだ。
慌てておいかけた七宝の目に飛び込んできたのは、煌びやかな衣装をまとい雲母へと杯を差し出す遊女大判だった。
『なんか懐かしくてねえ・・小判にもこんな可愛い時があったんだけどねえ・・・わっちのしでかしたことのせいですっかりアノ子には嫌われちまったてえわけさあ・・・だからアンタさえよければわっちの杯もらっておくれよお』
今となってはすっかりやさぐれた猫又になってしまったが、かつて可愛がっていた小判を偲ぶ遊女大判にもらったマタタビ酒を呑んだ雲母がどうなったかはいうまでもなかった。
『雲母ッしっかりせい!!・・・アアッそうじゃッこんな時こそおらがしっかりせねばっ!!』
子猫の姿のまま目を回しグデグデの雲母を前に気合いを入れる七宝を尻目に辺りの様子を探っていた冥加の目に飛び込んできたのは妖艶な色香を纏った豊満な女体に蛇帯を締めたお香の姿であった。
『おうスィート
』
と言ったかは定かではないがその瞬間冥加に名案が閃いたのだった。
蛇の生き血を吸い滋養強壮の効果のある薬草と共に自らの体内でブレンドした特製の栄養ドリンクを屋台で売り捌けば金になるという按配だった。
『七宝!ここはわしにまかせておけい!!』
さっそく善は急げとばかりに単身お香が身にまとう蛇へ冥加は食らいついた。
『あっ冥加ジイッ!!どこへ行くんじゃっ!?』
七宝の呼びかけもむなしくお香の姿はあっという間に雑踏に消えてしまったのであった・・・
『まったく・・どいつもこいつも勝手なヤツばかりじゃ・・』
すっかりほろ酔い気分でゴロゴロと喉を鳴らし甘えた声で鳴く雲母を抱きかかえたまま、必死にお香の姿を探し回りようやっと発見したのは何故かたこ焼き屋の屋台で手伝いをする冥加の姿だった。
『たこ焼き~!!衆合名物ど×ケベダコのジャンボたこ焼き~~・・しかしなんちゅーネーミングセンス
さすが地獄じゃのう。予想の斜め上をいきおるわい・・お、おいおいわしはトッピングとやらじゃないぞ~~~ヒイッ食わんでくれ~~血ぃ吸ったろか!鬼!!
』
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『・・・いったい冥加ジジイは何をやっとるんじゃ。ここはやっぱりおらがしっかりせねばッ』
『おう来たか七宝!猫の手も借りたいが雲母はまだ無理そうじゃな・・こうなったらお主も手伝え!!愛くるしさをばらまいてたこ焼きを売りまくるのじゃ~~!!』
『・・・・・へ?』
『あら~あなたが冥加さんのお友達ね?・・お手伝い、お願いできる?悪いようにはしないから』
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『お・・・おらでよければ』
こうして行方知れずだった冥加と再会した七宝だったが、事情を知るお香に優しく諭されしばし屋台の手伝いをすることになったのであった。
『狐妖術狐火でどうじゃっ』
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『キャ~~可愛い
あ、たこ焼き一つくださいな~』
お香目当てのむさ苦しい獄卒に辟易していた冥加の読み通り、愛嬌をふりまく看板狐の登場に客層は一挙にモフモフ好きの女性客が占めたためお香考案のヘルシータコ焼きも投入され屋台はより華やかな賑わいを見せたという・・・
