鬼灯と俺下を勝手に脳内コラボしたら予想以上に、重い話になってしまった
重い設定でコメディって難しいんだなあと改めて思いました。
で、この作品に出てくる架空の登場人物、団体、名称などはさらに私の妄想設定追加でお送りします。
『は~・・でもいいなあ。部署が違っても衆合地獄で働けるなんてさ~』
新卒の唐瓜にとって憧れのお香の傍で仕事できるのは羨望であったが、呵責される亡者にとっては過酷な刑場でしかなかった。
十王の裁き後、新を失い混乱して取り乱した結果反感をかいとりあえず問答無用で阿鼻地獄から叫喚地獄へとたらいまわしにされたのだが、壱哉の死後長生きした新と吉岡が手厚い供養をしたことで減刑され鬼灯の計らいで衆道地獄の責任者に抜擢されるまでは衆合地獄の小地獄のひとつである「大量受苦能処」にて数十年に渡り刑を受けることとなった。
『せっかくですから一足先に職場見学させてさしあげますよ、じっくりたっぷり堪能してください』
鬼灯に放り込まれたアイアンメイデンのもたらす痛みと孤独が壱哉をじわじわと追いつめて行った。
新とは二度と会えないのだと諦めにも似た敗北がひしひしと押し寄せ完全に内にこもってしまった壱哉の悲鳴が途絶えたことを不審に思った獄卒が確認のために開いた隙間をこじ開け逃亡を図った。
そしてがむしゃらに逃亡を図った先で見た罰を受ける両親の姿に壱哉の理性は崩壊し、感情の暴走は止まらず悪霊化することとなったのである。
我が身を苛んだ刑場が新たな職場となることは些かの葛藤をもたらすものだったが、死後活きたまま苛まれる地獄において人材不足を補う試験運用の一環とはいえ亡者でありながら異なる役割を振られた以上、与えられたチャンスを棒に振る気は毛頭なかった。
聞けば組織化された地獄において、中途採用された者であっても三か月の試用期間を経て正社員に登用されるほど労働基準法が遵守されているとのことだが、生憎壱哉は試用期間を無事終えても契約社員のままだった。
(・・信用されていないものだ)
密かに嘆息した壱哉だったが、死後尚想い寄せてくれた新のためにも吉岡のためにも自身を律しようと覚悟を決めたのであった。
そんな壱哉の心情を察したのかお香が声をかけた。
『・・・なにかわからないことがあったらいつでも聞いてね。ホウレンソウを忘れないで』
社会に出てからというもの、常にトップに君臨してきた壱哉にとって初耳の言葉だった。
『ほうれん草・・・・ってなんだ?』
『・・・壱哉様』
『・・・・黒崎さん』
真顔で困惑を漂わせた壱哉の言葉に固まる新と吉岡を余所に素早く反応したのは茄子だった。
『俺、知ってるよ!ホウは報告、レンは連絡、ソウは・・・早退・・・だっけ?』
思い出しながらあやふやな説明を加える茄子に呆れたのか唐瓜が勢いよく突っ込みをいれた。
『早引けしてどうするッ!!ソウは相談だろ?・・・ったく、この間の新卒再研修で鬼灯様も言ってただろ?』
『あ・・・・そうだったそうだった・・へへ~』
あの時は芥子に関するレポートのことで頭いっぱいで気もそぞろだった茄子が誤魔化すように笑うと、唐瓜は呆れたように肩を竦めた。
『・・・鬼灯様って偉い方なのに新卒研修とかもするんだ』
意外な鬼灯の姿に感心する新にお香も笑みを浮かべたまま頷いた。
『ええ、鬼灯様は忙しい方だけど私たちの人柄はもちろん仕事ぶりもきちんと見てくださっているわ。だから私たちも安心して鬼灯様に相談できるのよ』
閻魔大王の補佐として機敏に動きどんな相談であろうと無下にせず部下に報いる。まさに上司の鏡のごとく存在だった。
『・・・なるほど、報告連絡相談だな。・・・わかった』
『あっと・・・そうね、ついでと言ってはなんだけどその格好で仕事するの?』
お香の疑問はもっともだった。地獄の住人の大半は昔ながらの着物姿だったので、スーツ姿の壱哉の姿は少々目立った。
『・・・できればこの格好でいたいんだが』
吉岡の計らいでスーツ姿で荼毘に付されたからこれまでとくに疑問に感じなかった壱哉だったが、白装束姿が当たり前の亡者の中ではさぞ目立った存在となっていただろうと思われた。実は三途の川では色男に弱い奪衣婆を一睨みで黙らせた壱哉はそのまま十王の裁きを受けたのだが、尊大な性格が災いしたためかすぐに要注意亡者のリスト入りになってしまったので、かえって目立つためあえてそのままの格好で刑にふすことになったのだが、壱哉が気に病むことはやはりなかったのだった。
郷に入っては郷に従えとばかりに着物へと改めた新と吉岡をまじまじと見やった壱哉が意向を伺うと、お香はとくにこだわりなく頷き返した。
『それならそれで別にかまわないわ。けど・・そうね、・・・私達獄卒は亡者から身を守る術を心得ているけれど貴方は違うでしょう?』
お香の懸念を正確に理解した壱哉は、逡巡した。
『・・・多少なら武道の心得もあるが・・いや、そもそも俺の顔を見知った奴と遭遇したらやっかいだな』
新と出会う前のこととはいえ、複数の相手と関係を持った壱哉としてはいささか気まずいことではあった。活きたまま数千年に渡り刑を受けねばならない亡者の中には昔の相手もいるかもしれなかった。
『・・・・黒崎さん』
新を裏切ったことは一度もなかったが心配を払拭したいと頭を悩ませる壱哉に対し吉岡が遠慮がちに申し出た。
『・・・それならいっそ仮面でもつけたらいかがでしょう』
『・・・・・なるほどな』
不敵な笑みを浮かべる壱哉から立ち上るオーラの黒さに思わず引く子鬼達を尻目に商店街のあちこちを即断即決の勢いでた回った壱哉はあっという間に装いを改めたのだった。
『・・どうだ!完璧だ!』
マントを羽織り目元のみ隠れる黒い仮面で覆い、鞭を手にしたその姿はまるで・・・・
『あ・・・タ××ード仮面』
『あわわわわ』
茄子の呟きに頷くようにゴクンと喉を鳴らした唐瓜の顔はすっかり青ざめていた。衆合地獄で遭遇した×問戦隊ど×兵衛マダムズを思い出したからだ。
『・・・・これ、よろしく頼む』
必要経費で落とすためか壱哉に促された吉岡の手には、衆合地獄宛ての請求書が握りしめられていた。
『付けで買い物って・・・』
金持ちのくせに意外とセコイ壱哉に呆れた新だったがここは地獄、現世で例えどんなに財を成そうとも持ち込めはしない。
採用されたばかりで初任給もまだの壱哉だったが、先立つものは必要だった。
『・・・今回は鬼灯様からの援助もあったからこちらで預かるわね。でも次からは事前に書類を提出してもらうことになるけれど。地獄はどこも予算がぎりぎりなの。だからお願いね』
意外なほど世知辛い地獄の金策事情に俄然やる気になったのは壱哉だった。
『俺に任せてもらえば予算などどうとでもなる』
現世において辣腕の経営者だった反面、法律スレスレの危ない橋を渡る一面もあったことは罪状にも表れていた。
とはいえ好色だったとはいえ壱哉が有能な人材であったことは確かだった。
『それは心強いわね。これから一緒に衆合地獄を盛り立てていきましょうね』
鬼灯を信頼するお香はこだわりなく頷き返すと、新しい仲間を心から歓迎したのだった。