最愛の者を救うため魂を削り寿命が縮んだ男がいた。



彼は生前の悪行の数々が祟り祟り神もかくやというほどの凄まじい負のオーラを纏った悪霊となり、今まさに閻魔大王の前に引き出され地獄の沙汰を待つまでとなっていた。



さて、彼に下される判決やいかに!?



『弁護士はまだか!?地獄の沙汰も所詮金次第だろう?』



久々に手を焼く亡者相手に緊張する場に悪辣な亡者の待ち人来るとばかりに突如『待った』の声が響き渡った。



声を発したのはヨレヨレのくたびれたスーツ姿で子供のいたずら書きのような歪な大きなヒマワリのコサージュをエリに着けた自称『弁護士』を名乗る中年のメタボ親父の風体の愚鈍そうな男だった。



『誰だお前は!?俺が雇ったのは黒を白にできる最高の弁護士だぞ!しかも俺の好みじゃないッ』



たまたま場に居合わせた唐瓜は、美青年でないことに不満を漏らす亡者の妄言を聞きつけ『そっち系かよっ』と後ずさった。



事態の打破が真実叶うのか、見守る面々の中、唯一人深謀遠慮の鬼灯の双眸に浮かぶ光明。






『依頼人は充分反省してますし・・えっと・・・大体衆合地獄では依頼人の更生には不十分じゃないかと・・・思うわけで』






ヒマワリ


――ヒマワリか



勝手にたどたどしい口調で亡者の弁護を始める自称弁護士の登場を機に記憶の封印が綻んだ亡者の脳裏に浮かぶのは、ヒマワリ畑に佇むかつてただ一人愛した恋人の姿だった。



弁護士を目指し、困ってる人の力になりたいのだと心の内を明かしてくれた彼の澄んだ双眸に熱い想いが込み上げる。



しかし名を思い出せず、ジレンマに苦しみ業を煮やした亡者は、唯一手を差し伸べてくれた弁護士の手を振り払うと現世に舞い戻ろうと暴れ出した



『ど、どうしよう~鬼灯君っあせる



『ま、生前は悪魔から転生の誘いがあったほどの逸材ですからね。さて彼に与えるのは飴かムチか・・・どちらが相応しいのか悩むところですね』



第6天魔王もかくやとばかりの往生際の悪い悪霊と化した亡者を呵責すべく、慌てる閻魔に喝を入れると冷静に金棒を握り直す鬼灯の前に立ちふさがったのは、先ほどまでとは打って変わり思慮深い真摯な眼差しを向ける弁護士だった。



そしてちぢに乱れる小心な己の心を叱咤して、長年にわたり弱者を救済することで培った誇りを胸に、万感の想いを込めた一言を最愛の咎人へと発したのだ。



いい加減にしろっ!!このぽんぽこぴ~~~!!



!?



かつて全てを許容して受け止めてくれた最愛の者が己にくれた言葉は怒涛のごとく押し寄せる追憶の波に包みこみ、現世へとしがみ付き醜態を晒していた悪霊をただの男へと引き戻した。



―――新!!



『もうやめてくれよ、黒崎さん。そんなんあんたらしくないぜ?』



必死に懇願する懐かしい甘い声にとうに失ったはずの心を打たれ誇り高い己を取り戻した男は見る間に変貌を遂げ、禍々しく吐き気をもたらすオーラは一瞬で光へと化生して、光輪の中から姿を現したのは、かつて悪財築き好色をほしいままにし、悪行を重ねたものの一人の少年との出会いを経て善良さを取り戻した男、黒崎壱哉その人だった。



ダンディな壱哉の姿に『あ、イケメン』とひとりごちる茄子に胡乱な眼差しを向け再び後ずさる唐瓜。



変容する壱哉の魂に呼応するように、光に包まれた弁護士もまた彼本来の姿を取り戻そうとしていた。





実は壱哉の良心を量るために弥勒菩薩の悪戯で一時的に姿を変えられていたかつての勤労少年であり現、天国所属のスタッフとして働く清水新だったのであった。



壱哉の死後、正しい弁護士として生涯弱者の救済を行う一方で、最愛の壱哉を忘れることができず生涯独身を貫いた新だったが、一人息子を置き去り逃避行中だった両親の間にうっかりデキた年の離れた妹がいると判明してからは彼女と交流を深め、最期の時は妹とその家族に看取られ世を去ったのだった。




そのストイックな生き方はもちろん、悪魔落ちしかけた壱哉の魂を救済した功績が死後高く評価されたのである。



また壱哉自身地獄の最奥直行でも不思議はないほどの生前の素行不良ではあったが、罪なき者を救うために身を投げ出した無償の行為がやはり慈悲深い弥勒菩薩の目に留まったのだ。






『・・・地味ですね。にしてもぽんぽこぴ~って・・・タヌキ出そうです』



『シ~~ッここでタヌキの話しちゃダメあせる芥子くんコワイからっ・・・でもああいう地味っ子が意外と男のロマンなんじゃない?だって黒崎って亡者、顔緩みっぱなしじゃない。清水くんとの再会がよっぽど嬉しかったんだねえ・・なんかむず痒いけど汗



ガマのごとく冷や汗を垂らす閻魔を横目に脂で石鹸作りを目論む鬼灯、好き勝手いう

主従を前に感動の再会を果たした二人は熱く見つめ合っていた。



『新!・・・本当にお前なんだな?・・すまなかった・・』



『・・・おかえり、黒崎さん』



ひしと抱き合い久方ぶりの再会を噛みしめる二人だったが、余りにも愛らしい新の感触をさらに確かめようとばかりに、掌にしっくりと馴染む小ぶりの尻へと伸ばされる悪戯な壱哉の手を優しくつねり咎めだてをする新。



むかっこら、セクハラはダメだぜ~黒崎さん。ま、俺はあんたのこと好きだからいいけどさ~。いくら改心したからといっても、俺と出会うまでのみじっかい間にしでかしたアンタの素行の悪さばかりはフォローできないし。本来なら衆合地獄行きなんだかんな?

少しは反省しろっ!!」



『うっ・・・ゴメンなさい汗



『なんか彼、すごいよね?あの新って子猛獣調教師みたい。まあ、でもあの黒崎って亡者の×犯罪者スレスレの赤裸々な半生はちょっと浄玻璃鏡で映し出すのだけは勘弁して欲しいなあ・・見るのイロイロ勇気いるよ』



『・・・確かに。しかしこれで確信が持てましたね。先ほどの清水さんの指摘通り特殊な性癖を持つ亡者に対する呵責には課題が山積していて、本来色情狂が落ちるはずの衆合地獄も彼のような亡者に対応しきれないのが現状です。逆に言えば彼のような特殊な人材は必要不可欠なのです。だからこそ弥勒菩薩もお目付け役として清水さんを遣わしたのでしょう。・・・・コホン』



場を仕切るように金棒を床へと叩きつけ、衆人の注目を集めた鬼灯は閻魔をも凌ぐ威厳を漂わせながら言い放った。



『黒崎壱哉さん。地獄の最下層で貴方の性根を叩き直すのも捨てがたいですが、代わりと言ってはなんですがあなたに提案があります。今度衆合地獄の中に新設される特殊な性癖の亡者を呵責する××地獄を取りしきる責任者になっていただけませんか?』



『ノン気の子の離職率高いし、中には深みにハマっちゃう子もいるって噂だからねえ。女性には全く興味を示さないから従来のやり方じゃ全っ然効果でないし・・そう考えたらまさに適材適所だよねえ』



『ええ、唯一の難点は元来の好色が災いして呵責のはずがプレイになり、あまつさえ逸脱して地獄を私物化してハ××ムにするかもしれないという懸念があったのですが・・・』



鬼灯は黒崎壱哉生涯ただ一人の恋人となった聡明そうな少年を見やった。



『・・ま、大丈夫でしょ』



『・・・俺、あんたのこと信じてるからっ。だから引き受けてくれよ、黒崎さん』



思いがけない役目を突き付けられた黒崎は思案する風だったが、転んでもただでは起きない不屈の精神を発揮したのか、新の腰を抱き寄せると不敵な笑みを鬼灯へと向けながら言った。



『引き受けてやってもいい。ただし俺の出す条件を飲むのが絶対条件だ。・・まず新を俺専属の目付としてつけてもらおう。それから吉岡を返せ!!俺には有能な秘書が必要だ』



―――生前のまんまじゃん汗



壱哉の生前を知る新と閻魔の突っ込みがすかさず入った。



むかっく、黒崎さん!・・鬼灯様にそんな口のきき方しちゃダメだろ!?・・・すみませんっ・・・鬼灯様あせる



不敬な壱哉の態度にも鬼灯が動じた様子がないことに心底安堵する新だったが、一方怜悧な鬼灯は想定内の出来事だっただけに特には唱えなかった。



『かまいませんよ、清水さん。黒崎さん・・その条件なら呑んでもいいです。清水さんには天国所属のまま出向という形で地獄業務に協力してもらいます。吉岡さんですが彼は不喜処地獄に特設された『カニ地獄』を経て柿助さんと友誼を結んだ後、現在三途の川では巨大ガニにいじられながら奪衣婆と意気投合して助手をしているそうですよ。元来彼自身は善良な気質の持ち主だったはずなんですが、黒崎さんの悪行をほう助した罪を問われてしまったようですね』



『・・・吉岡、俺のために・・かに座まみれの刑に。・・・すまない吉岡』ガックリ



先ほどの不遜さはすっかりなりをひそめ、愛する者にはどこまでも誠実で殊勝な壱哉の態度に拍子抜けする一同。



こうして一旦は地獄に落ちたものの、弥勒菩薩の洒落た計らいで使わされた最愛の少年との再会でかつて得た魂の救済を思い出し、さらには三途の川で吉岡と再会を果たし、恋人と腹心を取り戻し本来の調子を取り戻した壱哉は、鬼灯の提案を呑み『衆合地獄』に新設された『××地獄』にやってきた亡者を呵責して日々ウハウハもとい充実した地獄ライフを送っているのだと言う。



助さん!?(=新)

『下に~下に~ひかえおろ~』



角さん!?(吉岡)

『この淫ろうが入らぬか~』



好色魔人兼衆合地獄特設地獄責任者(=壱哉)

『ははは・・せいぜい俺の下であがくがいい』



鬼灯

『これがホントのコー×ン地獄、変・・ですね・・・世も末です』



水を得た魚のごとく活き活きと亡者を呵責する『俺下一味』を遠目に見やった鬼灯は重い溜息とともに吐露したのであった。







終り