風呂場には亡者を引率する獄卒を始めとする多くの者たちが入れ代わり立ち代わり訪れてまさに目もまわるくらいの忙しさだった。
まず最初の試練は夕方5時きっかりにターボ婆のごとく勢いで水浴びにくる奪衣婆からの賃上げ要求をかわすことだった。
唐瓜
「あわわわ・・・
」
奪衣婆
「銭寄越しな~兄ちゃん・・あん?金魚目当てにバイト中?・・・はっ・・・どこも世知辛いねえ・・やっぱこうなったら女磨いて写真集出すしかないようだねえ・・・印税がっぽり老後も安泰ってね・・ひひひ
」
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奪衣婆
「
ほらっ・・手抜くんじゃないよ!サボってないでマセガキどもはせいぜい気合い入れて床磨きな!!」
機嫌よく蟹股で去っていく奪衣婆を見送った唐瓜はため息をついた。
唐瓜
「奪衣婆・・・写真集出す気なんだ
」
茄子
「あ、俺知ってるよ?この間雑誌に奪衣婆のインタビュー記事載ってた」
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唐瓜
「なんかお前って変な知識豊富だよな
」
茄子
「へへ~
」
唐瓜
(いや褒めてねえけどっ)
茄子
「フンフン赤いヒレで小さなコブの一番地味な金魚~どんなどんなどんな味~金魚草どんな味~
」
床や風呂釜をデッキブラシでこすりながらリズムよく腰を振り機嫌よくドナ×ナの替え歌を歌う茄子の歌声をBGMに黙々と清掃を続ける唐瓜だったが、さらに夜が更け人気がなくなると決まって始まる茄子の怪談話につき合わされ冷や汗をかくこととなった。
茄子
「ねえ知ってる?唐瓜・・おばあさんに雇われてお風呂屋で住み込みのバイトすることになったセンさんの話」
唐瓜
(お前は豆し×か!?)
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奪衣婆のインパクトが余程強かったらしい。やはり風呂場の婆にまつわる怪談を茄子はこなれた口調で語りだした。
タクシー運転手をする父親仕込みの鉄板ネタはすでに耳タコだったが、事実は小説より奇なりというのは本当らしい。二人きりだったはずが気付いたらポニーテール姿の少女らしき影が湯気の向こうに見えた。
ごくり![]()
デッキブラシを手に恐怖で強張る二人の視線の先で小さな声で呟く少女の声に耳を傾けると・・
??
『湯婆・・が言ってた・・間違えたらお父さんとお母さんが食べられちゃう・・どうしよう・・・夢なら覚めて。』
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唐瓜
「ヒイッ
これって・・・もしかして」
茄子
「出た~~
!!!」
都市伝説の怪、現世で言うところの『トイレの花子さん』に通じる怖さを持つ『風呂場の少女センさん』
実に恐ろしきは生霊かな。父の語る怪談の恐ろしさを茄子は身を以て知ることになったのだった。
???
『おお!!これぞ平たい顔族・・・いや角があるし・・違うのか!!それにしても平たい!!なんと面妖な』
さらには顔のやたら濃い自称ローマ人が突如風呂釜からザバッと勢いよく現れたかと思うと、茄子と唐瓜の顔をまじまじと観察した挙句新たな風呂のヒントを得たのか再び去って行ったこともあった。
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茄子
「
あ~!今のト××クに出てたヒトだよ、唐瓜!オマエのやったことは全部お見通しだ~ってヤツ。・・・そういや、あのお姉さんもなんかコンプレックスあったけ・・・たしかチチが~」
唐瓜
「
お前現世のTV見すぎ・・」
ローマ人の登場に動揺していた唐瓜はひとりごちた茄子の呟きを聞き逃すこととなった。
現世からぞくぞくと現れる迷える生者のもたらす様々な怪現象を乗り越え、鬼灯との約束の1週間が経ち合格をもらった二人の手に金魚草の植わった鉢が譲渡された時は感慨も一入だったのは言うまでもなかった。
そして鮮度が命、とばかりに金魚草は即日唐瓜の実家へと配達されたのである。
