茄子

「あ、そういえば鬼灯様、この金魚の名前は?」



素朴な疑問をぶつける茄子の声を聞きながら、つい先ほど交わした会話を唐瓜は思い出した。



―――そういや鬼灯様全部に名前つけてるって言ってたっけ



唐瓜自身が選んだ個体はこれといって特徴がなく色合いも地味なモノだった。果たしてそんな金魚草にどんな名をつけるのかちょっとだけ好奇心が沸きあがるのを感じながら気を取り直した唐瓜は鬼灯に注目した。


※架空の動植類です

鬼灯

「・・・・ああ、獄卒Aです」



!!



鬼灯の言葉に唐瓜の脳裏に影の薄い先輩獄卒の姿がぼんやりと浮かんだ。とても親切な先輩なのだがなにせ影が薄いあまり運動会で借り物競争に出場した際 、後から来た茄子に押し出されていたのを思い出した唐瓜は密かに同情した。





鬼灯の冷徹 使いまわしって言っちゃ嫌


しかし茄子は納得できない様子で首を傾げながら言った。



茄子

「ふ~ん、俺はてっきり女子の名前限定なのかって思ったんだけどなあ」



汗



鬼灯

「部下の女子獄卒の名前をつけて夜な夜な愛でていたらまるで危ないヒトみたいじゃないですか。それはセクハラですよ、茄子さん。・・・たんに考えるのが面倒だっただけです」



しかし解決策を閃いたとばかりに茄子は畳み掛けた。



茄子

「じゃあいっそのことあの大所帯のアイドルとかは?ジャンケンとか総選挙で・・・」



茄子の言葉に鬼灯と唐瓜の脳裏に現世の国民的アイドルグループが浮かんだ。



唐瓜

「茄子!それ以上言うな!!苦情がくる」



この世のものとも思えぬ鳴き声を発する金魚草に名をつけられたのでは訴えられかねない。



しかし鬼灯はため息を零すと冷静に突っ込みを入れた。



鬼灯

「そもそも、メスだけじゃ繁殖できません。少ないですがオスも含まれているのですよ。なんなら貴方の名前でもつけますか?茄子さん」



汗



唐瓜

(なんか衆合地獄みたいだな汗



――お香さん



お香の姿が再び浮かび頬を火照らせる唐瓜を余所に茄子は神妙な顔で鬼灯の申し出を辞退した。



茄子

「・・・・ハー×ムっぽくていいかな~って思うけど・・・汗



茄子の視線の先には茎だけになった巨大な金魚草の姿があった。愛情持って育てた金魚を一刀両断した鬼灯の仕打ちを考えればさすがの茄子をも躊躇させたのだ。



唐瓜

「あ、でもいいんですか?オスは個体数が少ないんですよね?」



ただでさえ少数のオスをもらってしまっていいのだろうかと気をもむ唐瓜に鬼灯は冷徹に言い放った。



鬼灯

「ここは地獄ですよ?ぬるいヤツは間引かれるのが世の常!強くてなんぼです。そもそもそれが野生の掟ですよ」



汗



なんだか他人事ではない含蓄のある言葉に身が引き締まる思いがしながら唐瓜は頷きかえした。



茄子

「そうだよなあ・・俺も頑張るぞ~」



すぐ横で訳知り顔で頷いている茄子に呆れた唐瓜は内心突っ込みを入れた。



―――お前のメンタルHP分けてくれ~汗



鬼灯

「それはともかく、大半は管理用に適当に名前を振り分けただけですから、その金魚草の名前は貴方方がつければいいです」



鬼灯の提案に唐瓜と茄子は互いに顔を見合わせた。



唐瓜

「・・・名前って言われてもなあ」



デフォルトという選択もあったが、さすがにそれでは先輩獄卒に申し訳なかった。



茄子

ひらめき電球なら唐瓜の姉さんの名前でいいんじゃないかな?」



汗



地味な金魚に姉の名を冠するのはなんとなく抵抗はあったが、忙しい鬼灯の手前それ以上手間取らせることはできなかった。



唐瓜

「・・・・そだなそ~するか」



話がついたところで鬼灯が言った。



鬼灯

「おや、あのお姉さんへのプレゼントですか?・・・よろしくお伝え下さい」



汗



上役と身内の話題は避けたかった。潮時だと察した唐瓜は改めて鬼灯に礼を述べた。



唐瓜

「鬼灯様、ありがとうございます!俺、頑張ります!」



それを受け茄子も金魚草に向かって声をかけた。



茄子

「よ~し、頑張るぞ!!絶対迎えにくるからそれまでいい子で待っててくれよォ」



能天気な茄子に呆れながら、昔の花魁のように艶やかな袖を揺らし哀愁を漂わせた金魚草から呆けた視線を転じた唐瓜が鬼灯の反応を伺うと忙しい身の鬼灯は簡潔に答えた。



鬼灯

「ええ、では二人ともよろしくお願いしますよ」



茄子&唐瓜

「はいっ」



こうして1週間二人は残業することになったのだった。