鬼灯

「はあ~相変わらずの人材不足ですね。さて・・どうしたものか」



閻魔大王から雑用を押し付けられ、部下からはスタッフ補充をせっつかれほとほと参った鬼灯は重い溜息をつくと忌々しそうに湯気で曇った熱湯の煮えたぎる大釜を見やったのだった。



ひらめき電球



茄子

「そういやあもうすぐホワイトデーだっけ」



唐瓜の姉に義理チョコをもらった のは先月のこと。社会人としてお返しをするのが礼儀だと思い立ったのは今夜のこと、とはいえ妙齢の女性にプレゼントなどしたことのない茄子は困っていた。



茄子

「・・・よ~し、明日唐瓜に相談してみよっと」



難しいことをくよくよ考えるのは性分じゃなかった茄子は唐瓜に相談することに決め、さっさと寝床にもぐりこんだ。



翌日、昼休み



並んで席に座りランチを共に摂りながら、さっそく茄子が用件を切り出すと唐瓜は気のない返事をくれた。



唐瓜

「別に、お返しなんていらないって俺は思うけどね。ウサギ印のあのチョコのこと思い出すだけで胃が痛くなるし。でも、ま、どうしてもってなら考えてやってもいいけど?」



姉弟ならではの気安さか、唐瓜の態度はやけにあっさりしたものだ。しかしいつになく気合いの入った茄子はめげずに唐瓜にさらに話を聞くことにした。



唐瓜

「フツ~ホワイトデーのお返しったらキャンディとかだろ?でもさ、姉ちゃん最近ダイエットに凝ってんだよね。だから甘いモノはやめた方がいいと思う。かといって俺らの給料で姉ちゃんが気に入りそうな無難なモノなんていってもさあ・・・」



ダイエット食品から下着まで通販にハマった姉のせいで所狭しとばかりに段ボールが積まれた実家の物置が脳裏に浮かび密かに唐瓜は嘆息した。いずれ唐瓜の自室も浸食されるのは目に見えており断固阻止せねばならなかった。



茄子

「そっか~う~ん」



ダイエット中というのは有力な情報ではあったが、茄子同様女性にプレゼントなどしたことのない唐瓜に気の利いた贈り物など思いつくはずもなく、そのことに安堵しつつも結局二人して頭を悩ませることになってしまったちょうどそんな時だった。





食堂に設置されたTVから軽快なメロディーに乗り最近巷で人気急上昇中のアイドルピーチ・マキが出演中のCMが、なんとはなしに耳に飛び込んできたのだ。



ピーチ・マキ

『あなたのハートにモモキュンッドキドキピーチ・マキで~す』




鬼灯の冷徹 アイドルマキ!?


茄子

「・・・・あ、桃尻お姉さんだドキドキ



唐瓜

「・・・・・なんか前向きなのと後ろ向きなネコ連れて呪文とか唱えそうだな汗



茄子

「チチのない子が着物着るのって大変らしいよ?タオル7枚巻かれたりするんだって・・」



唐瓜

(・・・どこ情報だよ汗



CM

『もうすぐホワイトデー!気になる女性にお花のプレゼントはいかがですかぁ?』



唐瓜

「・・仙桃じゃないのか汗



茄子

「う~ん、でも花とかいいと思うな。・・・俺は黄色い花よりお団子派だけどさドキドキ



耳ビックリマーク



唐瓜

「はいはい、けど花かあ・・うん、ありだな」



二人の関心は一気に花に移った。



唐瓜

「けどさ~花っていってもイロイロあんだろ~?薔薇とか定番だけど姉ちゃんのガラじゃないし。カーネションじゃお袋って感じだしなあ汗。茄子、なんかいいのある?」



正直花の種類なんてそうは知らなかった。茄子も同様の有様で再び二人は頭を抱えることとなった。



茄子

「・・・ひらめき電球あ!サボテンとか食虫植物とかは?」



さも名案とばかりにうきうきと楽しそうにいう茄子にげんなりした眼差しを向けた唐瓜はすかさず突っ込みを入れた汗



唐瓜

「たくさんある中でなんでソレ?」



とはいっても地獄では定番の花ではあった。愛好家のグループもあるらしい。しかし・・



唐瓜

「姉ちゃん、ああ見えて意外と繊細って~かさ。虫キライなんだ~だから食虫植物は却下。サボテンなあ・・・姉ちゃんずぼらだから前に家ん中裸足でうろついてて踏んだことあってさ。逆ギレしちゃって大騒ぎだったんだ・・それ以来サボテンはNG」



DASH!



意見がことごとく却下され幾度目かのため息をついた時だった。背後から落ち着き払った頼もしい声がかかったのは。



??

「・・・・金魚草なんかいかがでしょう?」※架空の動植類です



えっビックリマーク



驚いて同時に振り向いた先には、相変わらずの仏頂面で一人黙々と昼食を摂る鬼灯の姿があった。



茄子

「あ。A定食・・・いいなあ」



唐瓜

「鬼灯様!!」



突然の上役の登場に驚いて固まる唐瓜とは対照的に、しばしぽかんとした顔で鬼灯をまじまじと見つめていた茄子だったがいち早く立ち直るとたった今の鬼灯の提案を素早く考慮したのか見る間にぱあっと喜色を浮かべた。



茄子

「金魚草かあキラキラ



亡者に沙汰を下す裁判所を兼ねた閻魔大王の執務室前の廊下に面した中庭にびっしりと植わった色鮮やかな金魚草の群れが脳裏に浮かぶ。



ざわざわと蠢き、ゆったりと風に吹かれるように尾や背びれを優雅にたゆたう、奇怪な声で鳴く金魚草を愛で暇を見つけては日々丹精する鬼灯の姿も同時に浮かんだ。



ひらめき電球



実のところ、これまでもEU地獄のサタンをはじめ様々な相手に友好の証しとして『金魚草』は提供されたし、果ては天国において桃太郎の元お供の忠犬シロに至っては愛嬌ひとつで白澤から『仙桃』をタダでせしめたことは内緒だった。



鬼灯

むかっなんだかそれでは私があの軽薄(ナンパ)ヤロウよりケチな男みたいで非常に腹立たしいですが・・背に腹は替えられません!!それにここは地獄!働かざる者食うべからず!!馬の鼻先にニンジンぶらさげてなんぼ、この私自ら手塩に掛けて育てた金魚草、労働の対価であってしかるべきです!!食い付いた獲物を逃すほど甘くありませんよ。気移りしやすい茄子さんというのが若干気になりますが、まあ破れ鍋に綴蓋な唐瓜さんもいることだし大丈夫でしょ。しかし自分で勧めておいてなんですがホワイトデーに金魚草なんてまだまだガキですね←あ汗





茄子の心が動いたのを素早く見逃さずに鬼灯はここぞというタイミングで切り出した。



鬼灯

「一株だけなら譲ってもいいです。ただし条件があります。風呂釜掃除を1週間残業してもらえますか?」



!?



鬼灯の提案は願ってもないことだったから、茄子が即断即決したのは言うまでもなかった・



茄子

「ドナドナかあキラキラ・・俺、やります!」



えっあせる



唐瓜

「ああせる俺も・・・やらせてください汗



躊躇を見透かされたような気恥ずかしさを感じながらも、鬼灯の配慮に獄卒として報いたいと思いもありなによりも即決した茄子に出遅れたことが悔しかったので唐瓜は躊躇いがちにではあったが申し出を受け、茄子と共に一週間残業をすることになったのである。



善は急げとばかりに食後、茄子は唐瓜を連れ鬼灯に半ば強引に頼み込むように金魚草を望む中庭へと足を向けた。