「
あいつらあの時のっ・・・」
気分を害した様子の壱哉を呆然と見上げていると、すぐに気を取り直したのか心配そうな面持ちでこちらへ手を差し伸べてくれた。
どうやら壱哉は小さな人影に気づかなかったらしい。
「・・・あ」
凹![]()
その時になってやっと新は己の置かれた状況を自覚することとなった。全身たぬきの肉球まみれのずぶ濡れ状態の惨めな我が身を憂える新を、壱哉が優しく抱き起してくれた。
「怪我はしてないようだが・・・大変だったな、新。まさか二人揃ってたぬき難とはな
」
「あっ
・・・黒崎さんのスーツ・・・汚れるからっ」
「そんなこと構わないっ」
オーダーメイドの高級スーツが汚れてしまうのを申し訳なく思いながらも、グッと逞しい胸元に抱き込まれてしまうと心底安堵を感じた新は、力を抜くと壱哉に身をもたせ掛けた。
さらに温もりを確かめるようにギュッとしがみつくと壱哉の鼓動が一つ大きく跳ねたのがわかった。
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(・・・あ、黒崎さんもドキドキしてんだ。俺とおんなじ)
そう思えばやはり嬉しかった。付き合った当初はずっと、壱哉の気まぐれなのではないかという不安が常に心の片隅にあった。
だから壱哉の言葉が真実かどうか確かめたくて、顔色を伺ってしまうどこか卑屈な自分が嫌だった。
けれど雑念を払い目を閉じたまま心音を聞いていると、言葉にできなかった彼の想いが伝わってきて、新の心を温かく満たしてくれるのを感じた。
トクントクントクン
(こうしてっと・・・やっぱ落ち着く。誰かのこと・・・心から信じられんのって・・いつ以来だろ?黒崎さんもそう思ってくれたらいいな)
込み上がげる愛しさを少しでも壱哉に伝えたくて、うっとりと抱擁を交わしていると酷く場違いな声が響いた。
「ありゃっ!こいつはてぇへんだっ・・・大丈夫かい新くん?」
見ると戻った大将がひょっこりと裏口から顔を出していた。声とは裏腹に、目が笑っていて気まずさが増した。
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「ひゃっ
・・・た、大将!?」
いくら公認の仲とはいえ、留守を預かる身としてはまずい状況だった。
しかし動揺する新を制しながら大将は気安い調子で続けた。
「あ、い~からい~から。そんくらいウチの看板猫なんてしょっちゅうだもん。だから新くんも気にしなくていいよお~。お、黒崎の旦那も相変わらず水も滴るいい男だねえ」
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相変わらず掴みどころのない大将に、困惑しながら新はぺこりと頭を下げると報告した。
「お帰んなさいっ!!大将、あの・・・実はさっきこっからたぬきが…店ん中に・・・
」
しかしたぬきと言った途端、大将が大きなため息をもらしながらぼやいた。
「たくっアイツらも困ったもんだ。お使い頼んだら片っ端から食っちまうし、店番頼んだらす~ぐサボってどっか行っちまう。少しゃ~豆の奴を見習えってんだ。でもさ、腹は立つけどどっか憎めない奴らなんだよね~・・っていやいやこっちの話だから新くんは気にしなくていいからね」
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どうやらあまり知りたくない裏事情のようだったので、新もヘラッと迎合するように笑うと濡れた体を見下ろしため息を一つもらした。
すると大将から再び意外な申し出がされた。
「すっかり濡れちまったなあ。そのままだったら風邪引いちまうよぉ・・・丁度ウチの看板猫も留守なことだしさ、上がって風呂入ってきなよお。ささ、黒崎の旦那も遠慮しねえで」
「新、せっかくだからお言葉に甘えよう」
自分程ではなかったが、とばっちりですっかり濡れてしまった壱哉をおずおずと見やった新は、躊躇いがちに頷きかえしたのだった。
