ここからは新くん視点に切り替わりますのでご了承くださいませ~~
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壱哉を追い出した後、気を取り直した新が調理を開始して間もなくのことだった。
突然稲光が走ったかと思うとすぐにザンザンぶりの雨が裏口のドアを叩きつけるのがわかった。
「ひゃっ
・・・雨降ってきたのか。・・・どうしよ、
もってこなかったんだよなあ・・・
大将が戻ってきたら貸してもらえばいっか」
一人きりになってしまうと、雨音の響くだけの厨房の静けさが身に染みてしまい、いつもより独り言が口をついてでてしまうのを自覚しながら、新は周囲を見回した。
実は壱哉には言わなかったのだが、この厨房に入ってからというもの何かの気配を感じていた。
気のせいではなく集音力に特化した猫耳の力でトコトコとそこら中を走り回る音が聞こえて、一層新の不安は増した。
注意深く辺りの様子を気にかける小心な自分の反応に苦笑しながら、新は業務用と思しき冷蔵庫を開けた。
「・・・これと、これ・・・あっと、卵もか・・・あれ、卵ないのか」
しかし何故か卵が見つからず、困惑しながら新が冷蔵庫を閉めた瞬間、背後に再び気配を感じた。
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(・・・なんか・・・いるっ!?)
得体の知れない恐怖を感じながらも、確かめるためにさっと振り向いた新は絶句することになった。
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なんと小っこい黒崎さんが大鍋でぐつぐつ煮たと思しきゆで卵を熱さを物ともせずに美味そうに食べていたからだ。
モキュモキュモキュッ
「もえ~
」(冷めても美味いが、湯でたてのゆで卵はまた格別だな)
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「・・・お前がなにしゃべってるかわかるの・・やっぱこの耳のおかげだよな
はあ。
前会った時は『萌』としか聞こえなかったのに・・見た目だけじゃなくて声まで黒崎さんに似てるし・・。そっか・・さっきの声もお前だったんだ?」
合点がいった新はため息をもらした。
遡ること少し前、樋口のオーダーを取っていた時のことだった。『マンスペ』を注文されたものの、なんのことやら皆目見当がつかず動揺していた新の耳元で、壱哉の声で何かが囁いたのだ。
『樋口の好物はとんかつ御膳だぞ・・・新』
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助け船をだしてくれた声はその一度きりでぱったりとやんだので気のせいかとも思っていたのだが、その声の正体は小っこい黒崎さんだったらしい。
「・・・助けてくれたのは嬉しいんだけどさ・・・ど~しよ、たまご・・・
」
「もえ
」(なんだ欲しかったのか?・・ほら)
感心する一方で切実さが伝わったのか、すると小っこい黒崎さんが、かじり痕のついたゆで卵を差し出してくれた。
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(ゆで卵もらってもなあ・・・オムライスの飾りにしか使い道なさそうだし)
「・・・いいよ、気持ちだけもらっとくからさ。そのゆで卵・・・食べな?」
「萌
」(いいのか?それじゃいただきます)
機嫌よくすっかりゆで卵を平らげた小っこい黒崎さんは、満腹になったからかすぐに大の字姿で眠りこけてしまったのである。
ぐ~~~![]()
「・・・・やっぱ卵好きなんだ
ってか自分でちゃんとゆで卵作れることの方が驚きだぜ・・にしてもこうして見っと可愛いな」
その余りにも愛らしい姿にすっかり怒る気も失せた新だったが、オムライスを心待ちにしている壱哉のことを思うと、この事態をどう打破するか考えねばならなかった。
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「・・・・・あ、・・・・豆乳で湯葉でも作ってみっかな」
味の保証は全くないが、卵の代わりに湯葉を乗せても美味そうな気がした。
