ここからは、壱哉様視点に切り替わりますのでご了承くださいませ~~
【新少年の様子を伺う】を選択
驚いた壱哉が厨房を覗き込むと、新は悄然とした面持ちで立ち尽くしているようだった。
「・・・・新・・・?」
そっと声をかけると、ぴくっと肩を竦めたまま、顔を見られまいとするかのように新は顔をそむけ、壱哉をやきもきさせた。
気まずい空気が漂う中、どうすべきか途方にくれながら、壱哉はこうなってしまった原因が自分にあることを痛感していた。
本当なら新を連れこの店に来る予定だったのだが、友人となった樋口から連絡をもらい急きょ予定を変更することになってしまったのだ。
これまで友人と呼べる存在など皆無だった壱哉にとって樋口は初めてできた『友達』だったから大切にしたいと思ったのが裏目に出てしまったようだ。
さらに恋人の新と過ごせないならばせめて『もう一人の新』を愛でたいという下心もあった。
まさか正真正銘恋人の新が登場するなんて想定外の出来事が起きるとは思ってもみなかったが、誰よりも深い絆で結ばれた相思相愛の相手だけに驚きよりも喜びの方が勝ったのが本音だった。
しかし新からすれば、彼との約束を反故にした裏で樋口と密会している不実な男にしか見えないのだろう。
しかも壱哉がこの店を選ぶ理由など新に瓜二つの看板猫目当てであるのは一目瞭然なだけにより言い訳もしづらい状況だった。
「・・・・なんで?」
猫耳をへたらせ小さな肩を震わせ、涙声で弱々しく尋ねる新の姿はあまりにも可愛かったが、不謹慎だからと自粛した壱哉は一呼吸のあと、想いを込めながらただ一言発した。
「・・・・すまなかった」
「・・・・・うん」
謝罪を受け入れてくれた新を慈しむように背後からそっと抱きしめると、華奢な体が腕の中で震えて壱哉の中の温かな感情に熱を灯した。
やがて落ち着いたのか、猫のような仕草で握りしめた拳で涙を拭った新が俯いていた顔を上げ、じっとこちらを見つめたまま微笑んだ。
ブハッ
その無垢な笑顔の吸引力に悩殺された壱哉が、穏やかな空気を纏ったまま見つめ返すと、新はポッと頬を染めたまま言った。
「・・・この店のこと黒崎さんから聞いてたから、気になってさ・・・一人でラーメン食いにきたんだ。・・そしたら」
『・・・ごちそうさんっ・・・ふ~・・・美味かった』
和食屋でラーメンなど本当に頼めるのか半信半疑だった新だったが、看板猫の影響か実際に美味いラーメンにありつけることができた。
本当なら壱哉とランチデートするはずだったことを思えば、一人で店に来てしまったことに後ろめたさを感じていた新に大将から意外な申し出があったのだった。
『ね、新くん、・・今からちょっと時間あるかい?』
![]()
デートもドタキャンされ午後からのバイトも休みで暇を持て余していた新は躊躇いがちに頷きかえした。すると待ってましたとばかりに大将から店番を頼まれてしまったのである。
『え?・・・でもアイツは?・・・』
脳裏に看板猫を思い浮かべながら問う新に、なんでもないことのように大将が言った。
『あ、ウチの看板猫?アイツなら今、魔王様んとこに出前中だよ?・・・ありゃあ当分戻ってこないね』
―――![]()
『・・・この店、デリバリーもしてたんだ。・・あ、・・
。えっと・・・そういうことなら留守番引き受けてもいいですよ』
『本当かい?ありがとう!恩に着るよお~・・お、そうだそうだ・・じゃ、これね』
![]()
そうして大将から渡されたのが件の『猫耳カチューシャ』だったのである。
![]()
「・・・新、お人よしにもほどがあるぞ?・・と言いたいところだが、困ってる人を見過ごせないお前のそういう優しいところに俺も惚れたんだしな・・・」
![]()
「・・・黒崎さん・・・ほんと?」
瞳を潤ませながら不安そうに問う新を愛しげに見守りながら頷くと、余程嬉しかったのか新がきゅっと抱きついてきて壱哉を驚かせた。
いつもは年の差を感じさせないほどしっかりしており、利発で小生意気なところもあるが、その実寂しがり屋で内包する弱さをひた隠して強がり必死に背伸びする脆い一面も併せ持つ少年であり、そのギャップが壱哉の心をつかんで離さないのだ。
二度の抱擁を経てすっかり冷静さを取り戻したのか、恥ずかしそうに照れた面持ちでおずおずと身を離した新は改めて言った。
「・・・・あのさ、エプロン兄ちゃんのこと・・・怒ってねえから。・・今の俺には友達って呼べる奴がいないけどさ・・・でも友達を大切にしたいって思う黒崎さんは間違ってねえから
・・・だからいいんだ」
先ほどとは打って変わり、心に余裕ができたためだろうか、大人びた顔で新が一定の理解を示してくれたことを嬉しく思いながら壱哉が頷きかえすと、新は茶目っ気たっぷりにつけたした。
「・・・・できたら兄ちゃんには涙は玉ねぎのせいってことにしてくれな?」
新なりのプライドなのだろう。だから壱哉が察して頷くと新はホッとしたようだった。
それから元気を取り戻し、料理を開始した新に追い出されるように厨房から店内に戻ると、樋口は手持無沙汰な様子で外を見ていた。
店内が静かなだけに声をひそめていても、厨房でのやりとりは聞こえただろうが、友情を重んじたのか樋口は無関心を装ってくれた。
そんなわけで料理を待つ間、新に淹れてもらった焙じ茶を飲みながら寛いでいると、窓ガラスにポツポツと水滴が叩きつけられた。
「あれ?・・・もしかして雨?」
そう言いながら樋口が窓の外の様子を伺った時だった。
![]()
突然稲光がしたかと思うと、先ほどまでの晴天が嘘のようにあっという間に外は土砂降りとなった。
「・・・ひゃっ
」
ネコの性か、厨房の奥で本能的に怯える様子の新を気に掛ける壱哉の耳に、裏口の方から音が聞こえてきた。
さて・・・どうするかな
